記事・レポート

ハコモノ行政は、デザインで変えられる

建築家・谷尻誠と「ONOMICHI U2」の出会い

更新日 : 2015年09月16日 (水)

第4章 逆説的な発想で、住宅をより豊かに


 
「中庭」のある住宅

谷尻誠: 僕が手掛けた住宅の事例の少しご紹介します。

以前、2人の小さな子どもを持つ福岡のご夫婦から、「明るくて、人目を気にせず過ごせる、中庭のある家」というご依頼を受けました。中庭といえば、住宅の真ん中が吹き抜けになり、芝生や木が植えてある空間を想像しがちです。そこで僕は、あらためて中庭について考えてみました。

僕は幼い頃、よく路地で遊んでいました。季節の花が植えられた植木鉢が並び、イスを出して夕涼みをする人もいる。公共の場でありながら、各家庭の生活が少しだけはみ出した場所です。こうした場所は、家と家の間にある中庭のような空間、いわば「都市の中庭」とも言えるように思いました。

「都市の中庭」が、住宅とどのようにつながるのか? そう考えた時、僕は家の中にある廊下を「路地」に見立ててみました。そして、リビング、ダイニングキッチン、主寝室、子ども部屋、浴室、クローゼットという6つを部屋単位で切り離し、それぞれを独立した建物としました。各建物の間に、それらをつなぐ廊下(路地)があるわけです。廊下は通常よりも幅を広くし、ガラス製の屋根を架けることで明るさを取り入れています。

一般的な住宅であれば、廊下にはこれといった目的はありません。しかし、この住宅では廊下で色々なことが起きます。夜になれば、廊下にテーブルとイスを並べ、月や星を見ながら食事ができる。ソファを置けば、春のポカポカ陽気の下で昼寝もできる。夏にはミニプールで遊べる。子ども達が「外で遊んでくるね」と言いながら、実は家の廊下をグルグル走り回っている。廊下の使い方は暮らす人の自由です。もちろん、外からの視線を遮る工夫もきちんと施しています。

部屋と廊下の間には、境界となる段差はなく、家の中なので靴を履く必要もありません。ガラス製の屋根を付けたことで、空を眺められるけれど、雨は入らない。この住宅には、一般的な中庭はありませんが、居住者の実感としては中庭があるように感じます。

通常の住宅設計では、居住空間を広げるため、できる限り廊下を狭く、あるいはなくそうとします。しかし、この住宅ではあえて廊下を広げている。逆説的な発想により、住宅のあらゆる場所を豊かにしたような事例です。

特徴がないという特徴

谷尻誠: 建築家は、必ず白い建物をつくる、全面ガラス張りにするなど、その人なりの特徴、小説家であれば独特の文体のようなものが示唆されているケースが多いと思います。しかし、どのような人が、どのような状況で、どのように使うのか。特徴づくりに傾くあまり、この視点が抜け落ちてしまっているケースも見受けられます。従来の公共施設も、それと同じ傾向があるように思います。

一方、僕達の事務所は、特徴のないことが大きな特徴だと考えています。誰もが見逃している部分に光を当て、新しいものを見つける。問題を疑うことでゼロ地点に戻り、アイデアを発想していく。そのような中から、各案件に合わせて柔軟に進めていくことが多いと思います。

高橋俊宏:なるほど。住宅でも、昔の日本の家屋は土間があったり、母屋と水屋で分かれていたりと、現在とは異なるけれど、それで生活が成り立っていた。さらに、住宅の中と外の境界は、結構あいまいなものだったと思います。

谷尻さんが手掛けるプロジェクトは、それぞれに異なるカラーがあり、使いやすさや居心地の良さでも常に驚きがある。何か、使用者の気持ちが豊かになるような空間をつくられているなと、常々感じていました。次は、そのような谷尻さんが手掛けられた「ONOMICHI U2」についてお話ししていきましょう。



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