記事・レポート

ハコモノ行政は、デザインで変えられる

建築家・谷尻誠と「ONOMICHI U2」の出会い

更新日 : 2015年09月09日 (水)

第1章 危機感から生まれた「ディスカバーリンクせとうち」

国内外のサイクリストから“聖地”と呼ばれる、瀬戸内しまなみ海道。2014年3月、その本州側の起点・広島県尾道市にオープンしたのが、日本初のサイクリスト向け複合施設「ONOMICHI U2(ユーツー)」です。行政所有の古い海運倉庫を、デザイン性の高いホテルやレストランなどに生まれ変わらせたこの施設は、従来の“ハコモノ行政”に一石を投じる事例として注目されています。設計を手掛けた建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEの代表・建築家・谷尻誠氏、運営を担う株式会社ディスカバーリンクせとうちの代表・出原昌直氏に、プロジェクトを成功に導くまでのストーリーを語っていただきました。

スピーカー:谷尻誠(建築家/Suppose design office 代表),出原昌直(株式会社ディスカバーリンクせとうち 代表取締役社長)
モデレーター:高橋 俊宏(株式会社枻出版社 Discover Japan統括編集長)

高橋 俊宏(株式会社枻出版社 Discover Japan統括編集長)
高橋 俊宏(株式会社枻出版社 Discover Japan統括編集長)

 
いま、注目を集める広島・尾道

高橋俊宏: 月刊誌『Discover Japan』のテーマは、日本の優れた「こと」「もの」「場所」「人」の魅力を再発見し、発信すること。実はもう1つ、テーマがあります。それが「地方」です。日本の地方は自然も歴史も、食も文化も本当に豊かです。それを発信することも我々の使命だと考えています。

その中で今回、どうしても皆さんにご紹介したかったのが、広島県尾道市です。なぜならいま、尾道では次々とユニークなアクションが起こっているから。

その象徴が、瀬戸内海に面する古い海運倉庫をリノベーションした複合施設「ONOMICHI U2(ユーツー)」です。約2,000㎡の敷地には、サイクリストのニーズを具現化したホテルを中心に、レストラン、カフェ、ベーカリー、ショップなど、デザイン性に富む施設が入っています。私も様々な地方の取り組みを見てきましたが、近年の中では最たる成功事例だと感じています。

プロデュースしたのは地元のまちづくり会社、株式会社ディスカバーリンクせとうち。そして、設計デザインを手掛けたのは、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEの代表であり、国内外で活躍する建築家・谷尻誠さんです。まずは、同社の代表を務める出原昌直さんから、ディスカバーリンクせとうちについてご説明いただきます。

すべては、まちの未来のために

出原昌直: 設立のきっかけは、まちに対する「危機感」です。尾道市や隣の福山市を含む地域は、古くから繊維、造船、鉄鋼などのものづくり産業で栄えてきました。しかし、近年は海外に生産を依存することが増え、雇用も人口も減少傾向にあります。私も福山市で繊維業を営んでいますが、以前からまちの将来に対して不安を抱いていました。

自分達の未来、子ども達の未来、そして、まちの未来はいったいどうなるのか——。同じ頃、中学・高校の同級生や先輩、後輩もまた、地元の様々な産業に携わる中で、私と同じ危機感を抱えていたそうです。そこで2012年6月、思いを同じくする数人の仲間とともに会社を立ち上げました。

幸運にも、我々には尾道や鞆の浦(とものうら)という観光資源がありました。古くから陸運・海運の要所として栄えてきた場所であり、文学や映画の舞台にもなったレトロなまち並み、千光寺などの歴史ある寺社仏閣などが有名です。また、瀬戸内海という自然にも恵まれており、ここ数年は尾道から愛媛県今治市まで6つの島を結ぶ「瀬戸内しまなみ街道」が、サイクリストの聖地として人気を集めています。そこで私達は、観光・建築・サイクリングを切り口に、新たな事業と雇用を生むことができるのではないかと考えました。

事業を考える際、大切にしている原点があります。「その事業は、まちのためになるか?」です。会社である以上、利益を追求することは重要ですが、私達としてはそれが第一ではありません。たとえ儲かる事業があっても、まちの人達が大切にしたいと思える事業でなければ、意味はないからです。

本日はすぐ横に『Discover Japan』編集長が座られていますが、私達にとって会社を始める以前から憧れの雑誌であり、「いつか、この雑誌に取り上げられるような事業をやりたい」と考えていました。谷尻さんはじめ多くの方のご協力もあり、その夢も早々に叶えることができました。



該当講座


六本木アートカレッジ ハコモノ行政はデザインで変えられる
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