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どうすれば日本人は、一流のインベスターになれるのか?

三田紀房、松本大が語る「投資の意義」

更新日 : 2014年04月30日 (水)

第7章 一流のインベスターの条件


 
サラリーマンからの転身、漫画家・三田紀房の誕生

佐渡島庸平: 三田さんはアシスタントを経験せず、独学で漫画を学び、デビューされています。漫画の世界では非常に珍しいケースだと思いますが、どのように成功をつかまれたのでしょうか?

三田紀房: 僕は東京の大学を卒業後、大手百貨店に就職したものの1年で辞め、岩手の実家に戻り、兄と一緒に家業の衣料品店を継ぎました。しかし、商店街の衰退と歩を合わせるように、6年ほど続けたところで経営に行き詰まってしまった。現金収入を得るための方法を探していたところ、漫画雑誌の新人賞の募集告知を見つけたのです。多くの場合、大賞の賞金は100万円。言い方は悪いですが、受賞作を見たところ、ほとんどが荒削りでたいしたことがない(笑)。「この程度なら、俺でも描ける」と感じました。

そこで僕は、運があると思われる方向にアクションを起こしました。つまり、雑誌ごとの受賞作の傾向を分析したのです。そのうえで漫画を描き上げて数社に送ったところ、ある新人賞で入選しました。その後は編集者から「どんどん新しい作品を持ってきて」と言われ、何点かが掲載され、原稿料が入るようになった。このサイクルを繰り返しているうちに、漫画家になっていたのです。

私の場合、高校野球など自分の好きなテーマも描いていますが、それ以外にも医者、料理、競馬……どのようなテーマでも受け付けます。そうすると漫画業界の方々に「三田さんは何でもやってくれる」というイメージが定着し、様々なチャンスが舞い込むようになったのです。「断らない」「とにかく一生懸命やる」で運を引き寄せることもできますし、世の中の物事も8割方克服できると思っています。あくまでも、個人の見解です(笑)。



限界を見極める

佐渡島庸平: 『インベスターZ』の主人公は、一流のインベスターへの道を歩んでいくと思いますが、三田さんの考える一流のインベスター像とは何でしょう? 

三田紀房: 1つ言えることは、主人公はまだ中学1年生、投資知識ゼロの子どもであること。大人の汚れた眼ではなく、キラキラと輝く純粋な眼で見た投資の世界とは、どのようなものなのか。いかに純粋な気持ちを持ち続けたまま、投資の世界を生き抜いていくことができるのかが、今後の大きなテーマになると考えています。

投資は「儲ける」ことが絶対条件の、きわめてシビアな世界です。しかし、多額の利益を生み出すことだけが、一流の条件とは言い切れないとも感じています。ですから、投資という行為のなかに財前君の夢や理想、希望を織り込み、人間として成長していくことができれば、一流のインベスターに近づくように思います。

佐渡島庸平: 投資を知り尽くした松本さんの考える、一流のインベスターとは?

松本大: たとえ一流でも、一生儲かり続けることはできません。場から降りる、つまり投資を中断しなければならない場面は必ず訪れます。そのときに、どのような判断を下すのかが、1つの分かれ目になります。

プロのトレーダーは、お客様から預かったお金を運用します。儲かり続けていれば注文が増え、扱う金額も大きくなり、やがて自分の把握できるキャパシティを超えるときが訪れます。しかし、報酬への欲望、「自分はまだまだできる」という過信・慢心から、新しい案件を受けてしまう。結果的にそれは、自分にもお客様にもあまり良い結果をもたらさないのです。

一流の投資家は、自らの限界を知っています。自分に対する客観的な見極めができなければ、一流の投資家とは言えないのです。

関連書籍


インベスターZ(1)

三田紀房
講談社