オピニオン・記事

『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年03月04日 (火)

第10章 子育てを支援しない企業が“ブラック企業”になる日

講演風景

 
危機は確実に近づいている

船橋洋一: 竹内先生は、社会全体で子どもを支え、育てるとおっしゃられました。高齢者に対しては、年間約50兆円も使い、まさに社会全体で支えています。なぜ、高齢者はよくて、子どもはダメなのでしょうか?

竹内幹: 高齢化問題のほうが、少子化問題よりも少し先に登場したからでしょう。平均寿命が延び、介護の問題が浮かび上がってきたのは、1970年代です。少子化が社会問題として認知されはじめたのは、1990年代のはじめです。しかし、根本的な間違いは、本来は一緒に考えなければならない少子化と高齢化の問題を、まったく別のものとして切り離して考えてきたことです。

船橋洋一: これから産まれる赤ちゃんは、産まれた瞬間から約5,000万円の借金を背負わされている。一方で、団塊以上の世代は「持ち逃げ世代」と言われている。逆ピラミッド化には歯止めがかからず、投票数でも勝てないとなると、若い世代はどうすればいいのでしょう?

荻原国啓: 定年延長の義務化も、選挙による1つのバイアスだと思いますが、近年の高齢者優遇の流れは、社会を取り巻く状況に逆行しています。そこでたとえば、定年延長義務化と同時に、若者に対しても多様なキャリアパスの仕組みを用意する。あるいは40歳定年とし、以後はそれまでのキャリアを幅広く活かせるような多様な働き方の選択肢を設ける、という柔軟な制度があればよいと思います。

塩崎彰久: 若い世代のフラストレーションが社会的な運動に発展する日は、それほど遠くないと思います。たとえば、子育て支援制度が整備されていない企業に対して、若い社員が「子育ては基本的な人権であり、子育て支援制度の整備は企業の義務だ」と裁判を起こす。おそらく、国内外において大きなニュースとなるはずです。今後は、子育て支援制度がない企業は、ブラック企業と言われてしまうかもしれません。遠くにあると感じていた危機が、ある日突然、自分の会社の危機になる。その可能性は確実に高まっています。

社会的なプレッシャーの弱さ

竹内幹: 実は、先ほどから私たちは最悪のシナリオを排除しながら話しています。人口衰弱における最悪のシナリオは、「日本で、自分の子どもを育てられなくなる」こと。出産や育児を軽視する流れが今後も続くと仮定すれば、子どもの数はますます減っていくでしょう。そうなれば、日本の文化を継承していくという国家的な理想自体、実現できなくなってしまうのです。

船橋洋一: 文化という言葉が出ましたが、国が設けた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の黒川清委員長は、最終報告書の英訳版の序言に「今回の原発事故は人災であり、その背景・構造は、結局のところ、日本の文化に遠因がある」と記しています。集団主義、島国根性、和を尊ぶ。そうした国民性が、危機対応力を低下させ、根拠のない安全神話を醸成してしまう要因だったと。この序言に対しては「文化が原因ならば、責任の所在が明確にならず、教訓も学べない」と、海外から相当な批判を浴びました。しかし、日本人として考えれば、こうした文化は日常の様々な場面で感じられることです。

塩崎彰久: 確かに、日本には空気を読む、異を唱えることを避ける、といった文化があります。しかし、それは日本に限らず、世界のあらゆる国にもあります。いわゆるオリンパス事件で、自社を告発したマイケル・ウッドフォード氏と話した際、彼は「不祥事や危機は、世界のどのような場所でも起こる。しかし、日本は不祥事が起きた後の、その問題に対する社会的な厳しさがない」と語っていました。海外の場合、不祥事が起きれば、世論やマスコミは徹底的に追及・糾弾します。日本ではまだ、社会的なプレッシャーが弱い。だからこそ、危機への意識が高まっていかないのかもしれません。

関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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