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おとな絵本

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更新日 : 2013年12月27日 (金)

第7章 エッセイ絵本と詩の絵本

澁川雅俊: ‘おとな’絵本のもう一つのカテゴリーに随筆や詩の絵本があります。ところで詩にはさまざまな形式があり、とりわけ散文詩や自由詩は文体随筆、随想などと区別が付きにくいので、以下では一つのグループにまとめました。

●旅の絵本

絵本作家の重鎮の一人で、文化功労者の安野光雅は、どこまでもつづいている道をずんずん進んで、迷いながら旅をして『旅の絵本〈1~7〉』(福音館書店)を出しました。旅は、イタリア、そしてイギリス、アメリカ、スペイン、デンマークと欧米を周り、中国にも行きました。そして今度は『旅の絵本8:日本編』が出されます。それらは単なる風景画ではなく、それぞれの国や地域の歴史・文化的な背景を踏まえて、一筋の道を繋いで旅の様子が詞書きなしで描かれています。ですから、絵本エッセイ(あるいはエッセイ絵本)と呼んでもいいかもしれません。愉快なのはおもしろい欧米編の各画面(見開き2ページ)に画家の姿が描かれていることです。赤い帽子を被って馬に乗っている小さな旅人がそれです。

ところで、この絵本の出版社のセールストークに「読んであげるなら5・6才から。自分で読むなら小学低学年から」とあります。でもこの文字のない絵本をどうしたら読んで上げることができるのだろう、低学年の小学生はどう読むんだろう、などと意地悪な疑問が浮かびます。「…小学低学年から」とあるのが救いです。


●猫の絵本

旅の関連では高野玲子の『旅する猫たちモン・サン・ミシェル』(東宣出版)もあります。この本には、モン・サン・ミシェルへの旅の最中に出会った人たちを猫の姿を借りてモノトーンの版画で描いているのですが、この作家は、猫を銅版画で描き、独得の作風で人気を得ています。体裁は‘こども’絵本のようですが、前に挙げた賢治の『どんぐりと山猫』や猫の不思議な可愛さを描いた『月の夜の猫たち』と『ねこ記念日』と『窓ねこ屋根ねこ』は、若い女性に非常に人気があります。

またこんな絵本もあります。建築家であったエンターテインメント作家の森博嗣が本の装幀や挿絵を描いているイラストレーター佐久間真人と組んで制作した『猫の建築家』と『失われた猫』(光文社)で、猫に託して「美」の意味を問い続ける物語詩の絵本です。そして賢治受容作品を制作した黒井健も『ホテル』(瑞雲舎)で猫を描いています。この作品はホテルをテーマとしたエッセイで、人口[ 6]光の下でのホテルの情景を色鉛筆で繊細に描いており、猫はホテルのお客や従業員を擬人化しているものです。宇野亜喜良も『白猫亭—追憶の多い料理店』(小学館)で猫を描いています。この絵本はイタリアン・レストランのメニューに見立てて作られていますが、そのお品書きを飾っているのがこの画家が特有のロリータ風の少女と猫、そしてそれらが合体した上半身少女で下半身が猫やその逆の姿の妖精です。


●ロリータ絵本

蜂飼耳と宇野亜喜良の『エスカルゴの夜明け』(アートン)は、詩人が〈ロリコン〉的な散文詩を書けば、画家が同じ趣向の挿絵を描く、打てば響くような作品です。〈ロリコン〉(Lolita complex)とは、成人男性の幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のことで、中年男性が年の離れた少女を愛するナボコフの小説『ロリータ』に由来しますが、画家宇野は、女子高生詩人平岡あみの『ami〈アミ〉』で、老齢の詩人谷川俊太郎の『おおきなひとみ』で、児童文学者の今江祥智とのコラボ作品『オリーヴの小道で』と『薔薇をさがして…』で、ひたすら瞳の大きい、メランコリックに[ 7]少女を幻想的に描いています。さらにこの画家には世界の至る所に彼の〈ロリータ〉が居るらしく、彼女たちから送られた絵手紙を収録した『少女からの手紙』(書苑新社)などという作品もあります。



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