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更新日 : 2013年12月26日 (木)

第6章 ‘おとな’絵本化された童話



●グリムとアンデルセン

澁川雅俊: 一般に子どもの読み物とされている物語を作品本来の文学性を強調してリニューアルし、子ども向きと対比させた作品もあります。たとえは、「アーティストブックシリーズ」の中の束芋画の『カエルの王さま または鉄のハインリッヒ』(新風舎)はグリム童話の一篇ですが、このシリーズは、気鋭のモダンアーティストたちがグリムと時を超えてコラボレーションしています。『グリム幻想~女たちの15の伝説』(Parco出版)は、芥川賞作家で、〈内面の世代〉などと呼ばれる私小説作家吉井由吉がグリム童話に登場する女たちの心の動き再話し、西欧風の幻想的な画風のイラストレーター東逸子がヴィクトリア朝風にファンタジックに描いています。

『あなたの知らないアンデルセン』(評論社)で監修・翻訳者長島要一はこう訴えています。日本でアンデルセンは童話とされていますが、その作品は人間の実存にかかわるシリアスな読み物です。このシリーズでは大人の人たちに作品の深いところまで降りてもらうために、在日25年を超える英国人イラストレーター、シェリーと組んで‘おとな’絵本を作成しました。このシリーズには愛とエロスの結晶を赤裸々に描いた『人魚姫』、少なからぬ女性に心ひかれながらもその恋を成就できない男の話『雪だるま』、学者とその影のミステリアスで、美しくも怖い世界を描いた『影』、愛する者を失う悲痛さを母親の姿に凝縮させた『母親』の4点が収められています。また藤城清治もその長い人生に万感を込めて制作した、アンデルセンの『ぶどう酒びんのふしぎな旅』(町田仁訳/講談社)を光と影で飾っています。

●賢治絵本

宮沢賢治作品は本来すべてが文字言語表現のテキストですが、絵本化されたことによって童話的な特徴が強められてしまったのでしょうか、賢治は童話作家とされ、書店でも図書館でも賢治作品の絵本は‘こども’絵本の棚に置かれています。たしかに明らかに童話の位置づけでいいものもありますが、中にはにわかにそう断じ得ないものもあります。概して賢治作品は、読解力の成熟度によって味わいが異なるようで、わが国のアーティストたちがこぞってこの一世紀も前の作家の作品を我がもの にしようと挑戦している理由はそこにありそうです。以下にその雰囲気があるものを幾つかあげておきます。『雨ニモマケズ』〔小林敏也画〕、『注文の多い料理店』〔スズキコ−ジ絵〕、『銀河鉄道の夜』〔藤城清治画〕、同〔小林敏也画〕、同〔東逸子画〕、『黒葡萄』〔たなかよしかず画〕、『どんぐりと山猫』〔高野玲子絵〕、『グスコーブドリの伝記』〔小林喜巳子画〕などです。

ところで黒井健の絵本『雲の信号』と『私のイーハトヴ』は賢治絵本ではありません。大人のアーティストの賢治受容作品のいい例です。


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