オピニオン・記事

石田衣良 x 幅允孝『言葉のリズム、本の呼吸』

いまから目を逸らさず、ありのままを表現する

更新日 : 2013年10月04日 (金)

第1章 現代社会と呼吸を合わせながら書く

『池袋ウエストゲートパーク』シリーズをはじめ、スタイリッシュかつ軽やかな表現ながらも、現代社会が抱える問題に鋭く切り込む作品を数多く生み出してきた小説家、石田衣良氏。氏の視点で“いま”の空気を読み解いていくと、どんなものが見えてくるのでしょうか? ブックディレクターの幅允孝氏をモデレーターに、小説を書く際のこだわりだけでなく、本をめぐる過去・現在・未来を語っていただきました。

スピーカー:石田衣良(小説家)
モデレーター:幅允孝 (ブックディレクター) 

写真左:幅允孝 (ブックディレクター)写真右:石田衣良(小説家)
写真左:幅允孝 (ブックディレクター)写真右:石田衣良(小説家)

 
目の前で起きていることを表現したい

幅允孝: 石田衣良さんは、池袋や秋葉原、下北沢といった地場と結びついた小説、あるいは、社会的な問題や事件とリンクした小説を数多く書かれています。僕自身は、現代社会を取り巻く状況に寄り添い、呼吸を合わせながら小説を書かれているといった印象を持っています。

石田衣良: そもそも、小説というものがこの世に現れた最初の頃、その機能は「世の中で起こった出来事をきちんと書く」ことでした。たとえば江戸時代なら、街のどこかで注目を集める事件が起きると、すぐに誰かが小説に書き起こして、世に出回りました。それは、イギリスやフランスでも同じです。

正直に言うと、僕は人間という存在の深くまで降りていくようなテーマには、あまり関心がない。それよりも、いま目の前で起きていること、自分たちが生きている世界で起きていること、そこから目を逸らさず、ありのままをきちんと書きたい。そうした思いがあります。

小説でそっと背中を押す

幅允孝: 直近では『マタニティ・グレイ』(角川書店)という、仕事に燃えていた女性編集者が思いがけずに妊娠をし、出産するまでの心の揺れを描いた作品があります。単行本は今年3月に出ていますが、元々は2010年3月から2012年12月まで『野生時代』に連載されていました。この作品を書こうと思ったきっかけは何でしょうか?

石田衣良: やはり、少子化ですね。街を歩いていても、赤ちゃんや子どもの声は、あまり聞こえてこない。何となく、社会のバランスが崩れているような気がしました。政治家のように「産めよ、増やせよ」と言うつもりはまったくありません。この作品を通して、子どもを産みたいと考えている方々の背中を、そっと押す感じが出せればいいなと考えていました。出産や育児を取り巻く環境が大きく変わったいまだからこそ、何かを考えるきっかけになれればいいなと思います。

幅允孝: 連載の途中に東日本大震災が起こりました。このことは、作品にも影響がありましたか?

石田衣良: そうですね……。いま、震災のことに触れるのは非常に難しい。実はそれに関連して、僕は現在の日本人の心はとても弱くなっていると思っていて、それには2つの理由があると考えています。1つは東日本大震災の影響、もう1つは中国の台頭です。こうしたことが影響して、ものすごく不安な気持ちが社会に蔓延している。それを打開しようと、「高度経済成長期のような、古き良き時代の日本に立ち返ろう」という意見も出てきていますが、僕自身はそれに大きな違和感を覚えています。



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