記事・レポート

為末大の「自分軸」のつくりかた

軸が決まれば、自分の存在を最大化できる

カルチャー&ライフスタイルキャリア・人文化グローバル
更新日 : 2013年05月02日 (木)

第3章 体罰と自分軸

為末大(元プロ陸上選手)

 
価値観を他人に委ねてみると、楽になる

為末大: 最近、スポーツ界では体罰が大きな問題となっています。なぜ、体罰は起こるのか。それを考えているうちに、体罰と「自分軸」は関係しているのではないかと思うようになりました。

体罰が起きるような環境には、ある種の特徴があります。例えば、「俺たちの目標は全国優勝だ」「とにかく走って走りまくれ」といった極端なスローガンのようなものを、監督やコーチが作り出していることです。実はこうした環境下での選手側の気持ちは非常に楽になるのです。

なぜかと言うと、物事の判断基準や価値観、努力の方向性がすごく鮮明になるからです。後に残るのは、自分がどれほど努力できるかということだけになる。もちろん肉体的な辛さは伴いますが、少なくとも迷いや不安に由来する精神的な苦痛は大幅に軽減されます。

価値観を練り上げる作業を他人に委ねた時点で、「自分軸」をつくることはできなくなります。しかし、自分で価値観を練っていく作業は辛い。だから、その作業を誰かに委ねてしまい、自分は安心感を得る。うまく表現できませんが、自分で価値観を練る辛さや苦しさから逃れようとするあまり、何かに“染まる”という選択をしている人がいるようにも思うのです。

思考と本心の不一致感に目を向ける

為末大: 「人生で大切なことは何?」「幸せって何だと思う?」と問うていくと、多くの人はある程度のところで考えるのを止めてしまいます。「世間一般ではこれが幸せだし、自分もそれが大切だと思う」と納得して話が終わってしまいます。

確かに、考えてみても簡単に答えが出ない質問です。自分以外の何者かに価値の判断を委ねたり、あるいは何かに染まったりすることで、その答えを得ようとする。

納得したその裏側では、何となく腑に落ちない気持ちや、思考と心の不一致を感じているケースもあるのではないでしょうか。この不一致感こそが、幸福感を希薄にしている要因に思うのです。実は、この不一致感の中にこそ、「自分軸」につながる大きなヒントがあるのではないでしょうか。

終身雇用が通用した時代のように、所属する組織が安泰であれば、誰かに判断を委ねていても安心して過ごせたかもしれません。しかし、現代は違います。昨日まであった組織が、今日には無くなることもあるほど、人や社会の動きは刻々と変化しています。その中でタフに生きていくためには、やはり不一致感から目を逸らさず、自分の軸となるものを見つけておくことが大切になるように思います。

為末大の「自分軸」のつくりかた インデックス


該当講座

自分軸で挑む~21世紀“個の時代”に必要なこと~
為末大 (Deportare Partners代表)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

為末大氏×竹中平蔵氏
選択肢が広がり、価値観も多様化する今の時代、後悔しないため、よりよく生きるためにも、既成概念にとらわれることなく、自分の価値基準を持ち、自分で判断することが大切ではないでしょうか。『走る哲学』、『走りながら考える』等の著書を出版し、twitterでは14万以上のフォロアー、そして「為末大学」を立ち上げる等、常に自身の考えを発信し続ける為末氏に、「自分の軸を持つ」とは何かをお話いただきます。


キャリア・人 グローバル 文化