記事・レポート
時代とともに生きる老舗「虎屋」が進化し続ける理由
~虎屋17代当主・黒川光博氏が語る伝統と革新の企業哲学~
BIZセミナーキャリア・人文化経営戦略
更新日 : 2011年12月15日
(木)
第2章 「トラヤカフェ」挑戦の舞台裏~保守にならず、今を生きる~


トラヤカフェ 六本木ヒルズ店
黒川光博: :私どものような古い会社というのは、今までやってきたことが正しいと思いがちで、保守的になってしまう傾向があります。しかしこのような時代にあっては、それではいけないのです。大切なのは歴史があるということではなく、「今」だと私は思っています。今やらなければいけないことを、今、やる。だからこそ現代に生きる虎屋という会社があると思うのです。
実は、私は虎屋に入社したころ「和菓子の将来は一体どうなるのだろう。和菓子は将来なくなってしまうのではないか。そのときにはどうすればいいのだろう」と大変不安に感じていました。今から30年前に初めて海外(パリ)に店を出したときも、私の心の中は「これを今後の和菓子にどうつなげていけるか」という思いで一杯でした。
同時にこのころから「和菓子・洋菓子という分け方は正しいのだろうか?」と思うようになりました。歴史を見れば「和菓子」という表現が初めて登場したのは、明治22年に刊行された家庭で菓子をつくるための手引書の中のようです。国語辞典に載るようになったのは、戦後になってからのことです。当然のことですが、鎖国をしていた時代の日本にとっては和菓子も洋菓子もなかったわけで、昔から「和菓子」と言っていたわけではないのです。
それに「菓子」はもともと木の実や果物を指す言葉で、穀類を使った餅や団子も同類とされていました。そこに中国から入ってきた唐菓子や点心、ポルトガルなどから入ってきた南蛮菓子が合わさって和菓子ができたのです。つまり、本を正せば和とか洋にとらわれるのは視野が狭くなっているということです。おいしい菓子をつくるために、もっと柔軟に考えてもいいのではないかと思うようになりました。
そんななか、確か1997年ごろ、森ビルさんから「六本木六丁目に新しい街をつくる」というお話がありました。ちょうど私のほうも、新しい菓子を発表できる場を求めておりましたし「新しい街に、新しい虎屋を」という考えも一致しましたので、六本木ヒルズに初めて「トラヤカフェ」を出店することにしたのです。
これを実現するにあたっては、いろいろな面で大いに頭を悩ませました。先ほど、保守的になりがちだというお話をしましたが、「新しいことをして、もしお客さまが離れられてしまったら一体どうするんだ」という大変内向きな議論が起こったり、店の名前ひとつ決めるにしても「失敗したら虎屋の名前に傷がつくから『とらや』は付けない方がいい」と言う社員がいたりして大変でした。
でも「とらや」と名前に付けなくても、どうせすぐに虎屋がやっている店だということはわかってしまいます。であれば最初から逃げも隠れもしないで“虎屋”を前面に打ち出してやってみようじゃないか。何をやっても賛成も反対もある。だったら反対の方の意見を謙虚に聞きながら直せるものは直していけばいい。何事もシンプルにいこう。そういう考えに至って「トラヤカフェ」が誕生したのです。
今になって思えば、当時そうして頭を悩ませたり議論したりしたことによって、柔軟であることやオープンな姿勢の重要性に気づくことができたわけですから、これは今の虎屋にとって大変尊いことでした。いろいろ試行錯誤しましたが、今では和菓子の将来は明るいと考えています。
実は、私は虎屋に入社したころ「和菓子の将来は一体どうなるのだろう。和菓子は将来なくなってしまうのではないか。そのときにはどうすればいいのだろう」と大変不安に感じていました。今から30年前に初めて海外(パリ)に店を出したときも、私の心の中は「これを今後の和菓子にどうつなげていけるか」という思いで一杯でした。
同時にこのころから「和菓子・洋菓子という分け方は正しいのだろうか?」と思うようになりました。歴史を見れば「和菓子」という表現が初めて登場したのは、明治22年に刊行された家庭で菓子をつくるための手引書の中のようです。国語辞典に載るようになったのは、戦後になってからのことです。当然のことですが、鎖国をしていた時代の日本にとっては和菓子も洋菓子もなかったわけで、昔から「和菓子」と言っていたわけではないのです。
それに「菓子」はもともと木の実や果物を指す言葉で、穀類を使った餅や団子も同類とされていました。そこに中国から入ってきた唐菓子や点心、ポルトガルなどから入ってきた南蛮菓子が合わさって和菓子ができたのです。つまり、本を正せば和とか洋にとらわれるのは視野が狭くなっているということです。おいしい菓子をつくるために、もっと柔軟に考えてもいいのではないかと思うようになりました。
そんななか、確か1997年ごろ、森ビルさんから「六本木六丁目に新しい街をつくる」というお話がありました。ちょうど私のほうも、新しい菓子を発表できる場を求めておりましたし「新しい街に、新しい虎屋を」という考えも一致しましたので、六本木ヒルズに初めて「トラヤカフェ」を出店することにしたのです。
これを実現するにあたっては、いろいろな面で大いに頭を悩ませました。先ほど、保守的になりがちだというお話をしましたが、「新しいことをして、もしお客さまが離れられてしまったら一体どうするんだ」という大変内向きな議論が起こったり、店の名前ひとつ決めるにしても「失敗したら虎屋の名前に傷がつくから『とらや』は付けない方がいい」と言う社員がいたりして大変でした。
でも「とらや」と名前に付けなくても、どうせすぐに虎屋がやっている店だということはわかってしまいます。であれば最初から逃げも隠れもしないで“虎屋”を前面に打ち出してやってみようじゃないか。何をやっても賛成も反対もある。だったら反対の方の意見を謙虚に聞きながら直せるものは直していけばいい。何事もシンプルにいこう。そういう考えに至って「トラヤカフェ」が誕生したのです。
今になって思えば、当時そうして頭を悩ませたり議論したりしたことによって、柔軟であることやオープンな姿勢の重要性に気づくことができたわけですから、これは今の虎屋にとって大変尊いことでした。いろいろ試行錯誤しましたが、今では和菓子の将来は明るいと考えています。
時代とともに生きる老舗「虎屋」が進化し続ける理由 インデックス
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第1章 創業は室町時代。先人はいかにして危機を乗り越えてきたのか
2011年12月13日 (火)
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第2章 「トラヤカフェ」挑戦の舞台裏~保守にならず、今を生きる~
2011年12月15日 (木)
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第3章 新たな挑戦で、和菓子の人気を再認識
2011年12月16日 (金)
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第4章 見えないところも手を抜かない
2011年12月19日 (月)
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第5章 大切なのは「今、オープン、スピード感」
2011年12月20日 (火)
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