記事・レポート
創成のイノベーション「未来に継承するリベラル・アーツ」
VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar
BIZセミナー
更新日 : 2011年06月30日
(木)
第2章 リベラル・アーツとは何か?~詩人の心と科学者の目~
![佐治晴夫氏](/note/opinion/tqe2it00000f8pls-img/tqe2it00000f8pt1.jpg)
佐治晴夫: ここで皆さんに、リベラル・アーツとはどういうものか理解していただくために、まど・みちおさんの詩を紹介したいと思います。『地球の用事』という詩です。
「ビーズつなぎの 手から おちた/赤い ビーズ/指さきから ひざへ/ひざから ざぶとんへ/ざぶとんから たたみへ/ひくい ほうへ/ひくい ほうへと/かけて いって/たたみの すみの こげあなに/はいって とまった/いわれた とおりの 道を/ちゃんと かけて/いわれた とおりの ところへ/ちゃんと 来ました/と いうように/いま あんしんした 顔で/光って いる/ああ こんなに 小さな/ちびちゃんを/ここまで 走らせた/地球の 用事は/なんだったのだろう」
いかがでしょうか。ビーズつなぎの手から、赤いビーズが落ちました。まず指先から膝に落ちて、膝から座布団に落ちて、座布団から畳の上に落ちました。当時のお家は古くてゆがんでいましたから、コロコロ、コロコロ、ビーズくんは転がって、低いほうへ、低いほうへと駆けていって、畳の隅の焦げ穴に入って止まったんですね。そこで、まど先生はそのビーズが何を思っているのかという想像に入るのです。
「いわれた とおりの 道を/ちゃんと かけて/いわれた とおりの ところへ/ちゃんと 来ました/と いうように/いま あんしんした 顔で/光って いる」ここで終わってもいいものを、あと5行、先生は考えるのですね。「ああ こんなに 小さな/ちびちゃんを/ここまで 走らせた/地球の 用事は/なんだったのだろ」これがリベラル・アーツです。
言葉というのは非常に曖昧です。例えば、「ないものはないよ。そんなこと言ったって、ないものはないんだから」と言えば、ないんです。「あそこのスーパーに行ったら、ないものはないよね」と言ったら、何でもあるんです。「僕はうそつきです」と、僕は言った。もし僕がうそつきだったら、それはうそだから、うそつきではありません。もし僕が正直者だったら、「僕はうそつきだ」と言ったのはうそになります。さあ、どうしましょう?
私は前任校で学生相談室長をしていたのですが、学生の相談を受けていると、みんな言葉のすれ違いなんです。だから言葉というのは、「こんなにもいい加減なものなのか」と思っていたのですが、谷川俊太郎さんとの話の中で、「そう悲観することもないな」ということがわかりました。
どんな対談だったかというと、「遠くの銀河を観測すると遠ざかっていることがわかりますから、宇宙というのは膨らんでいるんです」と私が言えば、谷川俊太郎さんは「そうですか。宇宙は膨らんでいるのですか。だからみんな不安なんですね」とくるのです。「地球と月は引力で引き合っています。目に見えない力で引き合っているのです」と言えば、「そうですか。万有引力というのは孤独な力ですな」と。私が「いえいえ、相対性理論で言いますと、時間と空間で世の中はできていますが、時間と空間がひずんでいることで引力が出るんです。宇宙というのはひずんでいるのです」と言うと、谷川さんは「そうですか。宇宙はひずんでいるんですか。それゆえに人々は求め合うんですね」と。
言葉というものは曖昧であるがゆえに、詩や文学というものがあるわけで、どちらがいいとも悪いとも言えません。そういうことがあるということを前提として、世の中の真実を追求していく姿勢、これがリベラル・アーツです。数学の理詰めだけでやってもダメなんです。数学を解くには感性がないと解けません。私の友人の数学者は、「夕焼けを見てきれいだと思えない人間には、数学はわからない」というのが口癖です。美しいと感じる心というのは、とても大事です。
「ビーズつなぎの 手から おちた/赤い ビーズ/指さきから ひざへ/ひざから ざぶとんへ/ざぶとんから たたみへ/ひくい ほうへ/ひくい ほうへと/かけて いって/たたみの すみの こげあなに/はいって とまった/いわれた とおりの 道を/ちゃんと かけて/いわれた とおりの ところへ/ちゃんと 来ました/と いうように/いま あんしんした 顔で/光って いる/ああ こんなに 小さな/ちびちゃんを/ここまで 走らせた/地球の 用事は/なんだったのだろう」
いかがでしょうか。ビーズつなぎの手から、赤いビーズが落ちました。まず指先から膝に落ちて、膝から座布団に落ちて、座布団から畳の上に落ちました。当時のお家は古くてゆがんでいましたから、コロコロ、コロコロ、ビーズくんは転がって、低いほうへ、低いほうへと駆けていって、畳の隅の焦げ穴に入って止まったんですね。そこで、まど先生はそのビーズが何を思っているのかという想像に入るのです。
「いわれた とおりの 道を/ちゃんと かけて/いわれた とおりの ところへ/ちゃんと 来ました/と いうように/いま あんしんした 顔で/光って いる」ここで終わってもいいものを、あと5行、先生は考えるのですね。「ああ こんなに 小さな/ちびちゃんを/ここまで 走らせた/地球の 用事は/なんだったのだろ」これがリベラル・アーツです。
言葉というのは非常に曖昧です。例えば、「ないものはないよ。そんなこと言ったって、ないものはないんだから」と言えば、ないんです。「あそこのスーパーに行ったら、ないものはないよね」と言ったら、何でもあるんです。「僕はうそつきです」と、僕は言った。もし僕がうそつきだったら、それはうそだから、うそつきではありません。もし僕が正直者だったら、「僕はうそつきだ」と言ったのはうそになります。さあ、どうしましょう?
私は前任校で学生相談室長をしていたのですが、学生の相談を受けていると、みんな言葉のすれ違いなんです。だから言葉というのは、「こんなにもいい加減なものなのか」と思っていたのですが、谷川俊太郎さんとの話の中で、「そう悲観することもないな」ということがわかりました。
どんな対談だったかというと、「遠くの銀河を観測すると遠ざかっていることがわかりますから、宇宙というのは膨らんでいるんです」と私が言えば、谷川俊太郎さんは「そうですか。宇宙は膨らんでいるのですか。だからみんな不安なんですね」とくるのです。「地球と月は引力で引き合っています。目に見えない力で引き合っているのです」と言えば、「そうですか。万有引力というのは孤独な力ですな」と。私が「いえいえ、相対性理論で言いますと、時間と空間で世の中はできていますが、時間と空間がひずんでいることで引力が出るんです。宇宙というのはひずんでいるのです」と言うと、谷川さんは「そうですか。宇宙はひずんでいるんですか。それゆえに人々は求め合うんですね」と。
言葉というものは曖昧であるがゆえに、詩や文学というものがあるわけで、どちらがいいとも悪いとも言えません。そういうことがあるということを前提として、世の中の真実を追求していく姿勢、これがリベラル・アーツです。数学の理詰めだけでやってもダメなんです。数学を解くには感性がないと解けません。私の友人の数学者は、「夕焼けを見てきれいだと思えない人間には、数学はわからない」というのが口癖です。美しいと感じる心というのは、とても大事です。
関連書籍
14歳のための物理学
佐治晴夫春秋社
創成のイノベーション「未来に継承するリベラル・アーツ」 インデックス
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第1章 学問と企業の最前線に必要な「リベラル・アーツ」
2011年06月28日 (火)
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第2章 リベラル・アーツとは何か?~詩人の心と科学者の目~
2011年06月30日 (木)
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第3章 人間はどうして瞬きをするのか?
2011年07月01日 (金)
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第4章 自分のことは自分が一番よく知っている?
2011年07月04日 (月)
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第5章 もし月がなかったら、音楽はなかった
2011年07月05日 (火)
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第6章 心とは何か?
2011年07月07日 (木)
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第7章 なぜ戦争はなくならないのか?
2011年07月08日 (金)
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第8章 人間とは何か?
2011年07月11日 (月)
該当講座
佐治晴夫 (鈴鹿短期大学学長)
佐治 晴夫(鈴鹿短期大学学長)
「私たちはどこから来てどこに行くのか」という根本的な問題とともに、リベラルアーツ(教養や芸術)が我々にもたらす影響そして重要性についてお話いただきます。
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