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芥川賞作家、楊逸氏が語る

眉間にシワのよらない「異文化の中の常識」という話

ライブラリートーク
更新日 : 2011年03月16日 (水)

第6章 中国文化は派手な「華」の世界

楊逸氏

楊逸: 「中国五千年の歴史」というインスタントラーメンのCMを日本で見たとき、「たかだかラーメンに中国の五千年の歴史を使われたらたまらないよ!」って思ったんですけれど、ふと「五千年の歴史があるにもかかわらず、なんで今、中国はこんなに遅れているのか」と思ったら、非常に悔しかったんです。

お寺の文化や宗教や着物など、当の中国では失われてしまった素晴らしい中国の古代の文化が、日本で生きているのはどうしてなのか。たとえば着物は「呉服」と言いますが、呉服のデザインは蜀・魏・呉の三国時代の蘇州あたりのスタイルが、そのまま今の日本に伝わっているのです。

いろいろ調べてみたところ、中国では、一つの王朝が滅んで次の王朝が始まるときに、毎回ゼロからじゃなくてマイナスから始まっていたんです。新たな王朝の正当性を強調するためには、前の王朝を全部否定しなければならなかった。だから、前の王朝が築いた文化を全部破壊してしまったのです。

形のある物を壊すのは簡単ですけれど、常識、価値観、知識人にとっての思想など形のないものはどうしたかというと、王朝が変わるたびに洗脳したのです。焚書坑儒は有名ですよね。知識人は自分の考え方を持ってはいけない、政権のための考え方をしなければならなかったのです。

私が居たころの中国には、文学というものはほぼなかったと言ってもいいでしょう。全部、共産党の宣言になっていました。小説にしても、芸術にしても、絵にしても、全て文学は政治をテーマにしないといけない中で私は育ったのです。

そんな中国の文化を表すのにぴったりの漢字があります。それは、中華の「華」です。「華やか」という意味ですが、「派手」と解釈してもいいと思います。焚書坑儒も派手にやったし、文化大革命も、食べ物の酒池肉林もそうです。

酒池肉林というのは秦の始皇帝より前からあったもので、いつでも飽きるほど飲み食いできるように、家の中に池をつくってお酒をためておき、肉を林みたいに家の中につるしておいたんです。これは「私はお金持ちなんだ。私は権力があるから、こういうことをやっていいんだ」という考え方のもとでできたことだと思います。当時は冷蔵庫なんてないから、家にむき出しの生肉とか酒の池があったら臭くてしょうがないと思うんですよ。そんなの逃げたくなっちゃうはずなのに、それでもやるんですね。

これが清王朝になると満漢全席になります。満民族と漢民族の贅沢な料理を全部集めて食べるんです。一通り食べるには、1カ月ぐらいかかっていたようです。満漢全席は文化大革命のときに一旦はなくなったのですが、開放で外国人の観光客を誘致するために、また復活させたらしいです。さすがに1カ月食べ続けるというのは現代人にとってきついものがあるので、1週間で食べるそうです。

以前、中国語を教えていた方が「満漢全席に招待されて、明日、中国に行くんです」とうれしそうに言うので、「すごいね。私も食べたことない。きっと高級な料理ばっかりだよ。楽しんできて」と言って送り出しました。しばらくして、また会ったときに「満漢全席、どうでした?」と聞いたら、その方は浮かない顔で「三日間でバテちゃいました」って言うんですよ。三日間でバテちゃうような食事って一体……なんで命をかけて食べなければならないのか、全く意味がわからない(笑)。

最近テレビで、中国からの買い物客が炊飯ジャーを大量に買っているニュースをよく見ますが、私、腹が立ってしょうがないんです。「あなた、胃袋いくつ持っているの?」と聞きたい。何でそういうことをするのかというと、はやり派手な文化なんですね。要するに「私はお金持ちだよ」と見せびらかしたいんです。中国にはそういう文化的な背景があるんです。

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楊逸
文藝春秋


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