記事・レポート
芥川賞作家、楊逸氏が語る
眉間にシワのよらない「異文化の中の常識」という話
ライブラリートーク
更新日 : 2011年03月10日
(木)
第2章 毎晩15時間働いて9,800円もらえるなんて夢のよう!

楊逸: 日本に来た最初の頃、日本はすごく進んだきれいな国で、日本人はみんなお金持ちに見えました。実際、お金持ちだったんです。バブル経済の最中でしたし、その頃の中国はすごく貧しかったんです。
私は日本に着いてすぐ、工場で夕方5時から翌朝8時まで、毎日徹夜で15時間働いて9,800円もらっていました。日本人からすれば、「15時間で9,800円なんてひどい!」と思うかもしれないけれど、当時はうちの両親の月給を合わせても9,800円にもなりませんでした。
両親は二人とも学校の先生で、中国では中ぐらい、本当に普通の収入でしたけれど、1987年に私が日本に行くときに、日本円で3万円を持たせてくれました。その3万円は何年ぐらいかわかりませんが、長年の貯蓄をはたいてくれたものです。
日本に来て最初の1カ月は、「3万円! こんな大金使えない」と思って暮らしていましたが、徹夜の工場勤務で十数万円を手にしました。当時中国では、「万元戸(まんげんこ)」といって、日本でいう億万長者が話題になっていたのですが、私の月給十数万円の日本円というのはそれに匹敵するものでした。だから一攫千金じゃないけれど、「私、いきなり億万長者?」って(笑)。そのときの高揚感というか充実感といったら……人生の中で一番、芥川賞のときより喜んでいました(笑)。
いろいろなインタビューで「女の子が1日15時間も働いて大変でしたね。辛かったでしょう?」と聞かれるのですが、その頃のことは、私の中ですごくいい思い出になっているんです。
当時の中国では、お金持ちというのは悪い人とイコールでした。そういう価値観だったんですね。貯金があったら罪になるような中で、両親が長年、必死に貯めたお金は、日本の紙幣で3枚、たかだか3万円でしかなかったのです。でも私は日本で働けば、1カ月で十数枚も万札を手にすることができる。その喜びというのはすべてを超えていて、すごく楽しい日々でした。だから「辛かったでしょう?」と聞かれても、何が辛いのかわかりませんでした。
皆さんが想像できないほど中国は貧しかったんです。私はお金の価値を今もかみしめているので、いまだに物を捨てられません。一生、貧乏性。貧乏性というものは体から永遠に抜けないと思います。
私は日本に着いてすぐ、工場で夕方5時から翌朝8時まで、毎日徹夜で15時間働いて9,800円もらっていました。日本人からすれば、「15時間で9,800円なんてひどい!」と思うかもしれないけれど、当時はうちの両親の月給を合わせても9,800円にもなりませんでした。
両親は二人とも学校の先生で、中国では中ぐらい、本当に普通の収入でしたけれど、1987年に私が日本に行くときに、日本円で3万円を持たせてくれました。その3万円は何年ぐらいかわかりませんが、長年の貯蓄をはたいてくれたものです。
日本に来て最初の1カ月は、「3万円! こんな大金使えない」と思って暮らしていましたが、徹夜の工場勤務で十数万円を手にしました。当時中国では、「万元戸(まんげんこ)」といって、日本でいう億万長者が話題になっていたのですが、私の月給十数万円の日本円というのはそれに匹敵するものでした。だから一攫千金じゃないけれど、「私、いきなり億万長者?」って(笑)。そのときの高揚感というか充実感といったら……人生の中で一番、芥川賞のときより喜んでいました(笑)。
いろいろなインタビューで「女の子が1日15時間も働いて大変でしたね。辛かったでしょう?」と聞かれるのですが、その頃のことは、私の中ですごくいい思い出になっているんです。
当時の中国では、お金持ちというのは悪い人とイコールでした。そういう価値観だったんですね。貯金があったら罪になるような中で、両親が長年、必死に貯めたお金は、日本の紙幣で3枚、たかだか3万円でしかなかったのです。でも私は日本で働けば、1カ月で十数枚も万札を手にすることができる。その喜びというのはすべてを超えていて、すごく楽しい日々でした。だから「辛かったでしょう?」と聞かれても、何が辛いのかわかりませんでした。
皆さんが想像できないほど中国は貧しかったんです。私はお金の価値を今もかみしめているので、いまだに物を捨てられません。一生、貧乏性。貧乏性というものは体から永遠に抜けないと思います。
関連書籍
おいしい中国—「酸甜苦辣」の大陸
楊逸文藝春秋
芥川賞作家、楊逸氏が語る インデックス
-
第1章 中国は非常識? それとも日本が変なのか?
2011年03月09日 (水)
-
第2章 毎晩15時間働いて9,800円もらえるなんて夢のよう!
2011年03月10日 (木)
-
第3章 日本女性の話し方は、中国だと企みか誘惑と思われる
2011年03月11日 (金)
-
第4章 「勉強する」は、中国語では「無理する」という意味
2011年03月14日 (月)
-
第5章 「同じ漢字の国」とは言うけれど……漢字から文化がわかる
2011年03月15日 (火)
-
第6章 中国文化は派手な「華」の世界
2011年03月16日 (水)
-
第7章 日本の常識は、ほかの国の非常識
2011年03月17日 (木)
注目の記事
-
05月23日 (火) 更新
アートは新しい資本主義を作ることができるのか?
アートを通じて資本主義の先を見据えるアーティスト・長坂真護氏、アートと資本主義の関係を考察されてきた社会学者・毛利嘉孝氏、スイスのビジネスス....
~サステナブル・キャピタリズムの可能性~
-
04月10日 (月) 更新
フィジカルな紙の魅力を再考する「ブックデザイン・アーカイヴス」
美しい書物とは、どのようなものなのでしょうか。 今回は「フィジカルな紙の魅力を再考する~ブックデザイン・アーカイヴス」と題し、私たちが日常....
-
02月13日 (月) 更新
CATALYST BOOKS vol.6
イベント「カタリスト・トーク」の登壇者が紹介する「理解を深める1冊」。今回は、東京大学の小野塚知二さんに3冊ご紹介いただきました。
現在募集中のイベント
-
開催日 : 07月07日 (金) 19:00~20:30
Library Book Club
大好評を博したイベント「あなたの英語学習法は間違っていませんか?外国語学習の科学にもとづく効率的な習得方法」の講師、若尾和紀さんと英文原書を....
英語リーディング講座
-
開催日 : 06月30日 (金) 18:30~20:00
内田和成の『アウトプット思考』新刊イベント
元ボストン・コンサルティング・グループ日本代表、早稲田大学ビジネススクール教授として「知的生産」の最前線で活躍してこられた内田和成さん。最新....
最小のインプットで最大の成果を得る情報活用術
-
開催日 : 06月26日 (月) 19:00~22:00
森美術館開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」
今年20周年の節目を迎える森美術館。その記念企画「ワールド・クラスルーム展」を監修したアシスタント・キュレーターの熊倉晴子による展覧会の解説....
アーティストトーク+自由鑑賞