記事・レポート
ロボットクリエイター高橋智隆氏が描くサイエンスの可能性
夢のゴールは掃除ロボットや介護ロボット……じゃない!?
更新日 : 2010年09月02日
(木)
第5章 ロボットのつくり方(必要なのは設計図ではなく、落書き)

高橋智隆: ロボットはどうやってつくっているのかというと、コンピュータで設計図を書いて、それをもとに部品を自動で削り出し、産業ロボットみたいなもので組み立てる……というのでは全くなく、地道な手作りです。スケッチというか、落書きみたいなものをたくさん書いて、それをもとにつくっています。ちゃんとした設計図は、ありません。
設計図というのは、大勢で「ここの設計はどうしよう」と相談するために必要なものなんです。情報を共有するためのツールですね。あとは、工場に部品をつくってもらうためです。一人で部品からつくるなら、ちゃんとした設計図は要らないんです。自分の頭の中でわかっていればいいので、グチャグチャ書いたものをもとにつくっています。
すると、困ることも当然あります。「このロボットを量産して売りたいから、設計図がほしい」と言われたりするのですが、「ありません」となってしまうんです。「だったら現物を分解して採寸するから、本体をよこせ」と言われるんですけれど、一体しかないから渡せない。そういうときは、量産のための試作機をもう一体つくって、それを納品しています。
実は、設計図をつくらない理由がもう1つあります。それは、設計図をつくるとデザイン的に四角いロボットになりがちだからです。設計自体も、冗長な設計になってしまいます。「冗長」というのは、ちゃんと突き詰められていない設計ということです。物がない状態から想像で設計図を書いていくと、どうしても余裕を持った設計になってしまうんです。
ところが実物をこねくり回しながらつくっていると、「これは斜めにしたら、ギリギリ入るんじゃないか」とか、「コンピュータの基盤の配線が通っていないところをヤスリで削り落としちゃえ」とか、無理やりな設計ができます。その方が機械としてもデザインとしても、いいものができるんです。
部品はどうやってつくるのかというと、まず木型を削ります。その上にカセットコンロで熱して柔らかくなったプラスチックの板を置いて、裏から掃除機を当てて吸います。するとピタッと張りついて、木型の形で冷えて固まります。周りの要らない部分をはさみで切れば、部品の出来上がり。ですが、そのままだとペコペコなので、カーボンの板材と貼り合わせます。
「外装をとって骨組みを見せてくれ」とよく言われるのですが、外側に見えているのが骨の役割も兼ねています。外骨格と言って、甲羅が骨の役割を果たしているカニと一緒です。骨を先につくって、後で皮をかぶせると、皮が邪魔になります。関節が動くときにひっかかっちゃうんです。しかも外装の重さも邪魔になります。骨と皮を兼ねてつくると、格好よくて動きのいい、デザイン性と運動性能の両立したロボットができるんです。
記事をシェアする

ブログに書く
この記事のURLはこちら。
http://www.academyhills.com/note/opinion/10072705RobotCreator.html
ロボットクリエイター高橋智隆氏が描くサイエンスの可能性 インデックス
-
第1章 「ロボットのことを考えて、つくって、見せびらかす」のが仕事
2010年07月28日 (水)
-
第2章 きっかけは『鉄腕アトム』
2010年08月06日 (金)
-
第3章 京都大学の「学内入居ベンチャー第1号」として起業
2010年08月16日 (月)
-
第4章 「ロボカップ」でロボットづくりの技術を磨いた
2010年08月26日 (木)
-
第5章 ロボットのつくり方(必要なのは設計図ではなく、落書き)
2010年09月02日 (木)
-
第6章 日本と世界のロボットは、技術と文化が決定的に違う
2010年09月09日 (木)
-
第7章 箱型の機械ではなく、ヒューマノイドロボットが必要な理由とは?
2010年09月14日 (火)
-
第8章 ロボットを携帯電話のように“大きな市場”にする方法
2010年09月15日 (水)
-
第9章 専門家のアイディアより、みんなの遊び心が大切
2010年09月16日 (木)
該当講座
「最先端の知」シリーズ
第1回 天才ロボットクリエーターが描くサイエンスの可能性
高橋智隆 (ロボットクリエイター/(株)ロボ・ガレージ代表取締役)
高橋智隆(ロボットクリエイター)
単3電池2本でアメリカのグランドキャニオンを登り、過酷なル・マン24時間レースに挑戦した「エボルタ」の開発者である高橋智隆氏に、ロボット製作までの経緯や、今後のサイエンスの可能性についてお話いただきます。
BIZセミナー
キャリア・人 建築・デザイン

注目の記事
-
05月23日 (火) 更新
アートは新しい資本主義を作ることができるのか?
アートを通じて資本主義の先を見据えるアーティスト・長坂真護氏、アートと資本主義の関係を考察されてきた社会学者・毛利嘉孝氏、スイスのビジネスス....
~サステナブル・キャピタリズムの可能性~
-
04月10日 (月) 更新
フィジカルな紙の魅力を再考する「ブックデザイン・アーカイヴス」
美しい書物とは、どのようなものなのでしょうか。 今回は「フィジカルな紙の魅力を再考する~ブックデザイン・アーカイヴス」と題し、私たちが日常....
-
02月13日 (月) 更新
CATALYST BOOKS vol.6
イベント「カタリスト・トーク」の登壇者が紹介する「理解を深める1冊」。今回は、東京大学の小野塚知二さんに3冊ご紹介いただきました。
現在募集中のイベント
-
開催日 : 06月26日 (月) 19:00~22:00
森美術館開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」
今年20周年の節目を迎える森美術館。その記念企画「ワールド・クラスルーム展」を監修したアシスタント・キュレーターの熊倉晴子による展覧会の解説....
アーティストトーク+自由鑑賞
-
開催日 : 06月21日 (水) 19:00~20:00
「懐かしい」をシェアする夜
「青春時代のヒーローは?」「あの時欠かさず見ていたテレビ番組は?」懐かしいものにスポットを当てた交流会を開催!多種多様なメンバーと、それぞれ....
-
開催日 : 06月14日 (水) 18:30~20:00
World Report 第2回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから何が見えるのかを参加者の皆....
「分断が深刻化するアメリカ社会のいま」