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私とは何か?~自分探しの立ち位置~

読みたい本が見つかる「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2010年01月20日 (水)

第5章 「自分探し」の〈立ち位置〉の問題(2)

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

●宇宙・地球・生命の流れ

澁川雅俊: いま〈環境〉ということばが使われるとき、そのおおかたは、「自然」を意味しています。しかしそのことばを、私たちを取り巻くさまざまなものごとと捉えると、自然のように人間を含め以前から存在していたものだけでなく、家族とか社会とか文化とか歴史とか言語とか、人間がその歩みと共に創り出したものとがあります。そうしたもろもろのものごととのかかわりで〈私〉の存在を確認することも必要なのではないでしょうか。

とはいえそれらのものごとのそもそもの始まりは、180億年あるいは120億年前と推定されている宇宙の誕生にあります。その実態を私たちは経験したわけではないのですが、ビッグバンということがなかったならば、いまの私たちは存在しなかったわけですし、存在しなければ「自分探し」もありはしません。ホーキング博士と娘のルーシーが書いた『宇宙への秘密の鍵』(さくまゆみこ訳、08年岩崎書店)と『宇宙に秘められた謎』(さくまゆみこ訳、09年岩崎書店)は、ホーキング博士の「地球の問題は地球だけでは解決できない。だから宇宙に目を向けてほしい」という想いから書かれたものです。まさにそのこと、つまり「自分自身のことは自分では解決できない。もっと人間を取り巻くものごと、それは常に動的な存在だが、それらに目を向ける」ことが大事ではないでしょうか。

宇宙などというのは科学の分野の研究が進んで明らかにされたテーマで、それに関する本を読むことは私たちに、知らなかったことを教えてくれ、それはそれで読書の楽しみを知らせてくれることがままありますが、その本で知ったことの多くは私たちの日常生活にかかわりのないことが多く、その意味で身近なことではありません。しかし私たちがそう考えているとすれば、適正な「自分探し」はできないでしょう。宇宙に関する本も自分と宇宙のかかわりを頭の片隅に置いて読むと、科学的知識は単に博覧強記(広くものごとを知っていること)、その人の教養の深さ、広さとなって滲み出るのではないかと考えられます。

そういう考えに立って、さらにここでの「自分探し」の〈立ち位置〉を求めるならば、次に、いまなお激しく変かわりつつある地球を一望している『地球46億年全史』(リチャード・フォーティ著、渡辺政隆・野中香方子訳、09年草思社)も「自分探し」の〈立ち位置〉の一つでしょうし、その地球の最初の生命体から人類の誕生までをフォローしている『生命40億年全史』(リチャード・フォーティ著、渡辺政隆訳、03年草思社)も同じです。とりわけこの本は、生命の誕生にせよ、生物体の進化にせよ、人類の誕生にせよすべて〈必然の力〉(そうなるべく働く力の存在)ではなく、〈偶然の力〉が働いたということが重要だとしています。

この〈偶然の力〉ということについては、『人類が生まれるための12の偶然』(眞淳平著、松井孝典監修、09年岩波ジュニア新書)でも、私たちの存在が偶然の出来事であったとする解釈が重視されていますが、「自分探し」でもその偶然性が大きな意味を持つのではないでしょうか。先に挙げた『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』の5歳の子どもがそのおじいちゃんの孫として生まれたのはまったくの偶然としか言えないのです。

●類人猿、人類、そしてホモサピエンスの流れ

「自分探し」においてこの〈偶然の力〉というのは重要なコンセプトですが、それと同様に〈進化〉も重要です。そのことについては『ダーウィンの「種の起源」』(ジャネット・ブラウン著、長谷川眞理子訳、07年ポプラ社)がやさしく解説しています。

ただしここで解説されている〈進化〉は、ものごとの進歩(展開、発展、前進)という意味ではなく、まして私たち人間の個体が成長するという良い意味のことがらでもなく、生物遺伝的な変化を遂げ、分岐多様化してきた、あるいは今後もしていく現象を意味するものです。

『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』を10万世代ほど遡ると、5歳の子どもの存在は結局サルに行き着きます。「自分探し」をそのような〈立ち位置〉から進めるとすると、こういう本が参考になるでしょう。『あなたのなかのサル—霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』(F・ドゥヴァール著、藤井留美訳、05年早川書房)や『人間の境界はどこにあるのだろう?』(F・フェルナンデス=アルメスト著、長谷川眞理子訳、08年岩波書店)などはいずれも人間らしさの源流を求めています。

人類の起源という観点では、こういう本があります。『アダムの旅—Y染色体がたどった大いなる旅路』(S・ウェルズ著、和泉裕子訳、07年バジリコ)、『5万年前に人類に何が起きたか?』(R・G・クライン&E・ブレイク著、鈴木淑美訳、04年新書館)、『図説人類の起源と移住の歴史—旧石器時代から現代まで』(R・キング編、蔵持不三也監訳、R・セルデン訳、08年柊風舎)これらはいずれも、社会的・政治的・経済的環境や言語・芸術などの文化を創造しながら知的展開を図ってきた私たちの祖先のことが調べ上げられています。そしてこと日本人については、『ここまでわかってきた日本人の起源』(産経新聞生命ビッグバン取材班著、09年産経新聞出版)があります。