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私とは何か?~自分探しの立ち位置~

読みたい本が見つかる「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2009年12月17日 (木)

第2章 「自分探し」の本、本、本……

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

澁川雅俊: しかしいずれにせよ、哲学のような深い思索は肩が凝ります。そこでこのブックトークに相応しく、ここではごく‘ふつー’に「自分探し」というキーワードで、身近な問題として取り上げてみることにしました。

いつものようにそれをキーワードとして書籍データベースで調べてみると、随分とたくさんヒットしました。標題に「自分探し」が含まれているものは125点ぐらいなのですが、内容(解説や目次などに)それにかかわるものを含めると621点(※09.08.3現在)ありました。

その中には『男のための自分探し』(伊藤健太郎著、08年1万年堂出版)や『何処へ』(佐藤建著、09東京図書出版会)などのように、団塊の世代の一般人がその半生を振り返って自分自身を回顧している本も最近自費出版で随分と出されており、高齢者の関心の強さがうかがい知れます。

●本当の自分を探すこと、しかしその答は一つではない

ともかくどのような本が出されているかをちょっと見ていきましょう。

挫折とは言わないまでも、人は順調であった仕事や生活に違和感を感じたり、悩んだり、自信がなくなったときに「自分探し」を始めますが、『「本当の自分」はどこにいる』(加藤諦三著、09年PHP文庫)は、気取らない本当の自分を認めることが大事で、その自分を生かすために偽りの自分を創り、それを演じるのは愚かなことだと戒めています。

『二十一世紀の自分探しプロジェクト』(熊野宏昭著、09年サンガ)では、こんなことが論じられています。ようやく探し出した自分は、所詮自分の中で作り上げた物語、それが周囲の状況やライフサイクルやライフスタイルなどにより常に変化する。それにストレスを感じ、いつも落ち着かない。そこで、そのストレスから開放されるためには常に「いまこの瞬間にある自分」に焦点を当てるべきだと著者はカウンセリングの立場から、言っています。「自分探し」の答はいつも一定ではなく、そのときどきによって変化するもののようです。

ところで文学、とりわけ純文学には「自分探し」をテーマやモチーフにして書かれているものがたくさんあります。いまどきの高校生の嗜好はよくわかりませんが、私ぐらいの年代の人たちがその年頃だったころによく読まれたものにヘルマン・ヘッセの青春ものがあります。『郷愁』『車輪の下』『春の嵐』『デミアン』『シッダールダ』等などですが、いずれも青少年の自分探しがモチーフとなっています。とりわけ『デミアン〔改訂版〕』(H・ヘッセ著、実吉捷郎訳、09年岩波文庫)は、主人公の少年が、デミアンという友人の助けを得つつも、苦しみながら真の自己を見出そうとする自己成長の物語です。しかしデミアンがその時点で見出した自分が生涯そのままであることはなさそうです。

「自分探し」は自立することに敏感な若者たちに顕著に表れますが、それは若者たちだけの優先事項ではありません。『自己成長の心理学』(諸富祥彦著、09年コスモス・ライブラリー)は、自己を喪失し、生きがいを求めてさまよう現代の老いも若きもに対して、カウンセリングの観点から、いまを生き抜くためのさまざまな考え方を提唱しています。

また『人生は四十代からの勉強で決まる』(鷲田小彌太著、09年海竜社)は、年代による「生きがい」や「やりがい」探しの方法を論じています。その考え方の根底には、孔子の『論語』(為政第二)に述べられている「子曰く、吾れ十有五にして学に志ざす。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳従う。七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず」がありますが、〈勉強〉は自己が確立してからが本当の始まりで、学校での学習はそのための手習いみたいなものです。

●「自分探し」は周りの人びとに対応できる自分を見つけること

ところで「自分探し」の〈自分〉は個々人の枠内に封じ込まれているものではないようです。『私はどうして私なのか—分析哲学による自我論入門』(大庭健著、09年岩波現代文庫)がそのことをこう解説しています。〈私〉とは、他から独立したピュアな存在ではなく、他者の呼びかけに応対できる〈私〉である。

また『パートナーシップの家族社会学』(島村忠義他編著、09年学文社)という本ではそのことをこう敷延しています。探すべき自分は自分自身のことに違いはないが、それは周囲の人びととの人間関係の中で見出される。そういう人間関係の中で最も緊密である家族関係の中で自分探しをするとき、ライフサイクル毎に必要となるパートナーシップ(祖父母、両親、兄弟姉妹、妻、子ども、親類など)の重要性を論じています。


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