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私とは何か?~自分探しの立ち位置~

読みたい本が見つかる「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2009年12月09日 (水)

第1章 「自分探し」は、優れて哲学の課題

哲学でアイデンティティの問題として古くから論じられているテーマ、「私とは何か?」。
これをカフェブレイク・ブックトークでは、わかりやすく親しみやすい“自分探し”という身近な問題として取り上げます。世界同時不況で閉塞感のある今、自分自身を再確認してみませんか?
澁川雅俊フェローが、おすすめの書籍をたっぷりご紹介します。

講師:澁川 雅俊(アカデミーヒルズフェロー/前慶應義塾大学環境情報学部教授)

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

●はじめに

澁川雅俊: ここに『自分探しが止まらない』(速水健朗著、08年ソフトバンク新書)と『団塊世代の自分探し』(三宅隆之著、08年ファーストプレス)という2点の本があります。前者は海外放浪やバックパッカーなどの外こもり、自己啓発ムーブメントやフリーター増加など若者たちの「自分探し」現象を考察としています。後者は人生において一仕事を終え、さて残りの人生を自分らしく生きたいと考えている高齢者たちを応援しています。

私たちは普段何気なくその日その日を過ごしていますが、しばしば何となく不安になったり、違和感を覚えたりすることがあります。仕事がうまくいかなかったり、身体の調子が少しおかしいようなときに、私たちは戸惑を乗り越え、溌剌としていたときの自分自身を今一度確認しようと試みたり、今後どう振る舞うべきか等など深々と考え始めます。

それが今回のブックトークのテーマです。世界的不況下にあって閉塞感が強いきょうこの頃のことですから、いまあちこちで「自分探し」が行われているのではないでしょうか。


●「私とはなにか?」、アイデンティティの問題

哲学を‘ふつー’のことばで語り綴ったエッセイストで、若くして逝った池田晶子は『私とは何か—さて死んだのは誰なのか』(池田晶子著、わたくし、つまりNobody編、09年講談社)の中で、「自分なんてものは、いったん死ななけりゃ、わからない。」などとひねくれたようなことを言っています。「自分探し」は‘ふつー’の人びとの日常的な問題ですが、古来哲学で考察されてきた課題の一つで、アイデンティティ(同一性、存在証明)の問題として論じられています。『哲学で自分をつくる』(瀧本往人著、09年東京書籍)はその課題に対するギリシャ時代から現代までの哲学者の考えを追っています。

『共同存在の現象学』(レーヴィット著、熊野純彦訳、08年岩波文庫)によると、20世紀の哲学者ハイデガーは、アイデンティティの問題とは一つには「私は何であるか?」、いま一つには「私がある(存在する)とはどういうことか」をはっきりとさせることとしています。

また現代の哲学者であり、精神分析家でもあったエリク・エリクソンは、現代人の想いや心の内を的確に捉えるには「モラトリアム」や「ライフサイクル」と同時に、「アイデンティティ」の概念を確立しなければならないとしています。『自己形成の心理学— 他者の森をかけ抜けて自己になる』(溝上慎一著、08年世界思想社)の中で、「私」はどのようにして「私」になるのか? 人は、どのように他者と出会い自己を形成していくのか? さまざまな「私」の衝突をどう調整しているのか? などと問いかけながら、アイデンティティの概念を解き明かしています。

ハイデガーにせよエリクソンにせよ、普通の人びとが哲学書や心理学の専門書を読むのは大変骨が折れることです。岩波ジュニア新書の『西洋哲学の10冊』(左近司祥子著、09年岩波書店)では、周りの人びととかかわりながらよりよく生きることを論じたアリストテレスの「ニコマコス倫理学」、自分の中で自分に出会うアウグスティヌスの「告白」、「我思う、ゆえに我あり」と「わたし」から出発するデカルトの「方法序説」、「存在への問い」を問いつづけるハイデガーの「存在と時間」等などの「自分探し」の哲学をわかりやすく解説しています。

ところで「岩波ジュニア新書」は中高生向けに「わかりやすさ」を標榜して書き下ろされて出されている叢書で、これまでに600点以上出されています。その「わかりやすさ」は中高生だけでなく、大人にも有効であり、テーマやトピックによっては、大人向けの新書よりも適書であることがしばしばあります。


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