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今、日本が大切にすべき“プリンシプル”を考える

~『白洲次郎 占領を背負った男』著者北康利、竹中平蔵が白洲次郎を語る~

更新日 : 2009年11月16日 (月)

第6章 プリンシプル=生きる上での美学。では、美学とは何か?

北康利氏

竹中平蔵: 北さんは“プリンシプル”を「生きる上での美学」とおっしゃいましたが、「美学」という言葉はいろいろな使われ方をします。例えば大蔵官僚は財政再建、赤字をなくすというのが美学で、ちょっと極端ですが、「赤字をなくすためだったら国がどうなってもいい」とさえ思っている。

また、日本銀行の美学は「バランスシートを健全にすること」です。これらは彼らの“プリンシプル”ですが、それは非常にパーシャルなもので、明らかに日本のためになっていません。せっかくの機会ですので、「美学」を再定義していただけませんでしょうか。

北康利: 財務省が自分の権限で命令して赤字を下げていく意味においては、自分自身の力は決して低下しませんね。白洲は、犬丸一郎が帝国ホテルの社長になったとき、「役得を考えるんじゃねぇぞ、役損を考えるんだ」と言いました。つまり、社長のノブレス・オブリージュを発揮しろということです。

あるブログに「人間は自分のために一所懸命生きるときに崇高になるのではない。周りのため、人のため、国のためになろうと思ったときに、初めてそこに徳が生まれ、品格が生まれてくるのだ」とあって、いい言葉だなと思ったら「北康利の言葉だが……」と書いてありました(笑)。

私が言いたいのは、まさにこれです。自分のための“プリンシプル”からは、徳も品格も生まれない。商売の世界でいうと、近江商人の「三方よし」。「買い手よし、売り手よし、世間よし」、自分たち以外を考えなければ醜いものになってしまうのです。

竹中平蔵:  私は最近、B to Bという言葉をよく使います。バック・トゥ・ベーシック、基本に立ち返ろうということです。会社も国民を豊かにするために活動しているわけで、先ほど東北電力とジェイ・パワーの話がありましたが、一民間企業の利益を超えて考える。これがB to Bだと思うのです。

ちょっと飛躍しますが、ある政治学者が面白いことを言いました。小泉元総理は、派閥によらないで閣僚を指名し、閣僚で解散総選挙に反対する人がいたら罷免したので、変わり者だと言われてきました。しかし、その政治学者は「これは、内閣総理大臣は国務大臣を任命・罷免できるとある憲法通りに行なっただけだ」と言ったのです。

過去の内閣で何人かの総理大臣が、閣内で解散総選挙に反対されたために涙を飲んで総辞職した例がありましたが、「憲法通りにやったから支持された」と、この政治学者は言うのです。そういうものが多分“プリンシプル”なんですね。

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今、日本が大切にすべき“プリンシプル”を考える
北康利 (作家)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

戦後の激動の時代に、日本に誇りを持ち、日本のために自分の役割を誠実に全うした白洲次郎の「生き方」から、我々は多いに学ぶことができるのではないでしょうか。
今回は北康利氏と竹中平蔵アカデミーヒルズ理事長が「今の日本人に求められる“プリンシプル”とは何か」を、白洲次郎の生き方から議論します。


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