記事・レポート
「縄文の思考」~日本文化の源流を探る
更新日 : 2009年05月07日
(木)
第2章 発明の力の源は、土地の活気と情報の移動

小林達雄: 土器は世界各地で製作されるようになりますが、日本列島の土器が物理化学的な年代測定によると一番古い、圧倒的に古いのです。4、5000年は差をつけて、水を開けてトップグループを走っています。
だからといって、縄文土器が日本列島で発明されたかどうかというのは極めて難しい問題でして、まだまだ結論づけるわけにはいきません。けれど有力な候補地です。こんな島国で、アジア大陸の東の端から蹴り出されて、「ちょっと仲間に入れてくれよ」という悲鳴が聞こえてくるようなぶら下がり方をしている日本列島で、世界のトップグループになるような活躍をしていたわけです。
なぜそんなことが可能だったかということは大きな問題ですが、「これだ!」という答えはまだ出ておりません。しかし、いくつか状況として考慮すべき点があると思います。
1つは、日本列島というのは気候がちょうどいいのです。日本の風土には、本当に優れたものがあります。四季の適当な変化、冬といっても寒からず、夏も今年などは暑い日が続きましたけれども、それほど大したことがない、そういう土地柄です。
これが非常にうまく作用して、1万5000年前ぐらいに、集団がいろいろ活躍していた世界各地の土地を見渡しても、日本列島ほど人口密度の高いところはほかにありませんでした。とにかく事実として、遺跡の数が多い、ほかの地域を寄せつけないほど群を抜いた遺跡の密度なのです。
もちろん、遺跡の数がそのまま人口密度に正比例するわけではありませんが、ほぼ比例すると考えて大きな間違いはないでしょう。我々の経験則上、いろいろな歴史、あるいは各地の歴史を見てもそう言えると思います。
そして今でもそうですが、人口密度の高いところは活気があるのです。現在では過疎地がいろいろと問題になっていますが、その最も大きな問題は活気がなくなるということです。義務教育あるいは高校教育を終えると若者たちがみんな東京を目指すのは、何といっても刺激を求め、活力のある所に惹かれるというのが一番大きな理由でしょう。
東京は住む場所としては不適当な所だと思います。空気は悪いし、地方の方が食べ物もおいしい。けれどみんなが東京に集まってくるのは、人を引きつける違う要素があったわけです。それが活力です。
だからといって、縄文土器が日本列島で発明されたかどうかというのは極めて難しい問題でして、まだまだ結論づけるわけにはいきません。けれど有力な候補地です。こんな島国で、アジア大陸の東の端から蹴り出されて、「ちょっと仲間に入れてくれよ」という悲鳴が聞こえてくるようなぶら下がり方をしている日本列島で、世界のトップグループになるような活躍をしていたわけです。
なぜそんなことが可能だったかということは大きな問題ですが、「これだ!」という答えはまだ出ておりません。しかし、いくつか状況として考慮すべき点があると思います。
1つは、日本列島というのは気候がちょうどいいのです。日本の風土には、本当に優れたものがあります。四季の適当な変化、冬といっても寒からず、夏も今年などは暑い日が続きましたけれども、それほど大したことがない、そういう土地柄です。
これが非常にうまく作用して、1万5000年前ぐらいに、集団がいろいろ活躍していた世界各地の土地を見渡しても、日本列島ほど人口密度の高いところはほかにありませんでした。とにかく事実として、遺跡の数が多い、ほかの地域を寄せつけないほど群を抜いた遺跡の密度なのです。
もちろん、遺跡の数がそのまま人口密度に正比例するわけではありませんが、ほぼ比例すると考えて大きな間違いはないでしょう。我々の経験則上、いろいろな歴史、あるいは各地の歴史を見てもそう言えると思います。
そして今でもそうですが、人口密度の高いところは活気があるのです。現在では過疎地がいろいろと問題になっていますが、その最も大きな問題は活気がなくなるということです。義務教育あるいは高校教育を終えると若者たちがみんな東京を目指すのは、何といっても刺激を求め、活力のある所に惹かれるというのが一番大きな理由でしょう。
東京は住む場所としては不適当な所だと思います。空気は悪いし、地方の方が食べ物もおいしい。けれどみんなが東京に集まってくるのは、人を引きつける違う要素があったわけです。それが活力です。

歴史的に地球上、各地の出来事を見ていくと、何か大きなことを仕出かした地域というのは過疎地ではなく、人口密度が高い所です。それと同じように、日本列島の人口密度が高いということでものすごい力を発揮し、世界に先駆けて土器を製作、使用したということです。
発明地かどうかは特定できないとしても、マラソンレースのように人類の土器づくりレースというものがあったとすれば、少なくともトップグループのトップに近いところをずっと維持していた、それも圧倒的に早かったんです。アフリカ出身のランナーがぐんぐんトップを走るみたいに相当速かったのです。
もう1つ、1万5000年前ぐらいというのはまだまだ氷河時代が続いている時期で、地球は全体に寒くなっていました。寒いとどうなるかというと、高い山の上や緯度の高いところに氷河が発達します。地球上には一定の量の水があるわけですが、氷河として水の相当部分を氷として閉じ込めてしまうわけです。そうなると、海は水の状態ですから海面がぐっと低下するのです。
例えば東京湾などは今よりも20mぐらいかそれ以上、低いところに平坦面がありました。それがその後だんだん暖かくなって今の状態になるわけですが、以前は大陸と北海道が陸続きでした。津軽海峡は130mの水深があります。朝鮮海峡もそうです。130m水面が下がるということはありませんが、少なくとも北の方は北海道の東海岸に流氷が押し寄せるのと同じように、今でも間宮海峡(タタール海峡)は冬になると氷でちゃんとつながるのです。それと同じように宗谷海峡(ラペルーズ海峡)がつながって、日本列島に到達できるようなフリーウェイができていたのです。
人口が多くて活気づいていて、環境としては大陸側のさまざまな動きをキャッチできるような位置にあったというのは重要な点だと思います。そのほかにもいろいろあったかもしれませんが、この2つは少なくとも忘れてはならない非常に重要なことで、日本の縄文革命を推進した原動力になったと考えられます。
発明地かどうかは特定できないとしても、マラソンレースのように人類の土器づくりレースというものがあったとすれば、少なくともトップグループのトップに近いところをずっと維持していた、それも圧倒的に早かったんです。アフリカ出身のランナーがぐんぐんトップを走るみたいに相当速かったのです。
もう1つ、1万5000年前ぐらいというのはまだまだ氷河時代が続いている時期で、地球は全体に寒くなっていました。寒いとどうなるかというと、高い山の上や緯度の高いところに氷河が発達します。地球上には一定の量の水があるわけですが、氷河として水の相当部分を氷として閉じ込めてしまうわけです。そうなると、海は水の状態ですから海面がぐっと低下するのです。
例えば東京湾などは今よりも20mぐらいかそれ以上、低いところに平坦面がありました。それがその後だんだん暖かくなって今の状態になるわけですが、以前は大陸と北海道が陸続きでした。津軽海峡は130mの水深があります。朝鮮海峡もそうです。130m水面が下がるということはありませんが、少なくとも北の方は北海道の東海岸に流氷が押し寄せるのと同じように、今でも間宮海峡(タタール海峡)は冬になると氷でちゃんとつながるのです。それと同じように宗谷海峡(ラペルーズ海峡)がつながって、日本列島に到達できるようなフリーウェイができていたのです。
人口が多くて活気づいていて、環境としては大陸側のさまざまな動きをキャッチできるような位置にあったというのは重要な点だと思います。そのほかにもいろいろあったかもしれませんが、この2つは少なくとも忘れてはならない非常に重要なことで、日本の縄文革命を推進した原動力になったと考えられます。
「縄文の思考」~日本文化の源流を探る インデックス
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第1章 日本列島で起きた歴史的な大事件「縄文革命」
2009年04月15日 (水)
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第2章 発明の力の源は、土地の活気と情報の移動
2009年05月07日 (木)
-
第3章 土器の使用が遊動生活から定住生活への転機になった
2009年05月25日 (月)
-
第4章 定住生活によって営まれた村には、社会的なルールがあった
2009年06月11日 (木)
-
第5章 縄文人は人工的な村を営みながらも、自然と共生していた
2009年06月30日 (火)
-
第6章 日本の「文化的遺伝子」は言葉を通して紡がれた
2009年07月17日 (金)
-
第7章 現代の言葉に息づく、自然との共生体験の歴史
2009年08月06日 (木)
-
第8章 縄文時代、既に「言葉の壁」があったのではないか?
2009年08月07日 (金)
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第9章 縄文時代を知ることは、我々自身を見直すことにつながる
2009年08月10日 (月)
-
第10章 縄文人に芽生えた「人間意識」
2009年08月11日 (火)
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第11章 日常生活の役に立たないモニュメントをつくるのは、人間だから
2009年08月12日 (水)
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第12章 「定住したのは縄文の方が大陸より早い」は本当か?
2009年08月13日 (木)
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第13章 文化的遺伝子を継承するために
2009年08月14日 (金)
該当講座
小林達雄 (考古学者/國學院大學名誉教授)
人類史を三段階に分け、第一段階を旧石器時代、第二段階を新石器時代とし、この契機を「農業」の開始に焦点を当てて評価する説があります。ところが、大陸の新石器時代に匹敵する独自の文化が、大陸と隔てられた日本に生み出されました。それが農業を持たない「縄文時代」「縄文文化」です。 縄文文化は土器の制作・使用が....
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