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「縄文の思考」~日本文化の源流を探る

更新日 : 2009年04月15日 (水)

第1章 日本列島で起きた歴史的な大事件「縄文革命」

「縄文の思考」~日本文化の源流を探る 会場様子

小林達雄: 縄文文化というのは農耕以前の米も鉄もない時代にもかかわらず、文化的な内容は非常に見上げたものです。語るべきものがたくさんあります。今日は時間の許す限り、皆さんにその一端をお伝えできればと思っております。

人類は今から650万年ぐらい前にチンパンジーやゴリラの仲間から分離独立して、人としてひとり立ちを始めました。アフリカで誕生した人類はヨーロッパの方に渡ってきますが、その先祖はやがて途絶えます。

けれどその後、またやはりなぜかアフリカの方で新しい仲間が誕生しました。これが10万年ぐらい前になりますが、3万5000年とか4万年ぐらい前になると、またヨーロッパの方に渡り、その仲間がユーラシア大陸からアジア大陸の方にまで拡散していきます。その分派、仲間が日本列島にたどり着いたのが3万5000年前ぐらいです。

この頃の遺跡が北海道から九州までたくさん残っています。大雑把にいいますと、1万カ所ぐらい遺跡があります。それはいわゆる旧石器時代、旧石器人の遺跡です。当時はナウマンゾウやオオツノジカといった、ものすごく図体の大きい大型動物が群れをなしていた時代です。多分、その後ろを追いかけながら日本列島に渡ってきたのが、日本列島における人類の歴史の始まりだろうと考えることができます。

今、「3万5000年前」と申しましたが、それよりも古い文化があったのではないか——というのは3万5000年前ぐらいの遺跡が北海道から九州までずっとありますから。遺跡は地から湧くわけではありませんので、もしかしたら何年か前に、「何年か前」と申しましても1000年、1万年の単位ですが、そのぐらい前に先遣隊が来ていた可能性は大いにあります。そしてその可能性のある遺跡もいくつか見つかっております。これからそのあたりの解明が進むと思います。

さて、3万5000年前ぐらいから旧石器人の文化、活動が展開されますが、その後、1万5000年前ぐらいに、日本列島における歴史的な最初にして最大の事件が起こります。それを「縄文革命」と呼んでいます。

1万5000年前ぐらいというのは、最後の氷河時代が終わりに向かい温暖化に差し掛かってきた時代です。氷河時代はまだまだ1万年ぐらい前まで続くのですが、1万5000年前というのは、新しい歴史的な転換期に向かって地球が動き始めた、そういう時代なんです。

小林達雄 考古学者/國學院大學名誉教授
この頃、日本列島の旧石器人は弓矢、飛び道具を使うようになります。これは画期的な道具です。それから犬を飼育するようになります。犬はそれ以降ずっと人類の伴侶として我々の仲間になるわけで、最も古い家畜です。日本列島では世界に先駆けて犬を飼育していたと考えられます。

さらに、土器を発明します。土器というのは、それまでの長い人類の歴史の中で見ることのできなかった、全く新しい材料を使って道具をつくったという画期的なものです。それまでの道具は、ご存じのように石器を主としていました。動物の骨、牙、角、そういったものを使ったり、木の枝など、あり合わせのものを道具に仕立てたりしていたわけです。

1万5000年前ぐらいになって製作を始め、そして使用に供された土器というのは画期的なものです。何といっても、その道具が粘土製であるということが重要です。粘土を使って道具の形に仕上げるのですが、粘土はそのままだったら乾燥すると固くはなりますが、雨に打たれたり水に浸かったりすると溶けてしまいます。けれど焼きを入れる、熱を加えると全く違う性質に変化します。つまり、水に溶けないものになるのです。

土器はいわゆるそうした化学的な変化を応用した道具なんです。石や骨や角は物理的に形を変えるという意味があったわけですが、それに化学的な変化を取り込んだ道具が土器であり、人類の技術的な革新性としては極めて注目すべきものです。

それが器である——これがまた重要な点です。器は物を入れたり出したりできればいいのですが、日本列島では粘土を利用して器をつくるとき、粘土の性質を巧みに利用しました。粘土はちょっと具合が悪い形になりそうだったらコントロールして修正ができる。

これが石器だったら、打ち欠えているときに、きれいな人が通ってうっかりよそ見をしてパーンと変なところに打撃を加えて折れたり、折れなくても期待するような剥離ができなくなったりして、だめな形になってしまうかもしれない。

けれど粘土の場合は、そうなってもちゃんと修正ができるわけです。これは人類の造形学的な意味でも大変な革新性を持っています。道具というものは全て人間がデザインした形なのですが、その形の歴史において粘土を使った土器が出現したというのは極めて重要で、これが縄文革命の引き金になるわけです。


該当講座

『縄文の思考』〜日本文化の源流を探る
小林達雄 (考古学者/國學院大學名誉教授)

人類史を三段階に分け、第一段階を旧石器時代、第二段階を新石器時代とし、この契機を「農業」の開始に焦点を当てて評価する説があります。ところが、大陸の新石器時代に匹敵する独自の文化が、大陸と隔てられた日本に生み出されました。それが農業を持たない「縄文時代」「縄文文化」です。 縄文文化は土器の制作・使用が....


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