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頑張れ、本屋さん! ~最近、街の書店が消えている

本屋さんは一番身近な文化の発信地

更新日 : 2019年10月10日 (木)

第3回 〈リアル〉の本屋さんも頑張っている

本は日用品
澁川雅俊:物語の中だけでなく〈リアル〉の世界でも、たくさんの書店や書店員が頑張っています。それらの取り組みは書店の未来に対する危機感に起因するものですが、いずれも非常にしなやか、かつユニークです。

『本屋の新井』〔新井見枝香/講談社〕の著者は、三省堂書店のカリスマ書店員として知られ、彼女の押す「新井本」は芥川賞・直木賞の受賞作よりも売れると評判です。出版業界の専門紙『新文化』に連載コラムを持ち、時にふれ、イチ押し本の作家を招いて「新井ナイト」と称するイベントも開催する彼女は、「本は立派な日用品」と語っています。


「本は特別な商品ではない。八百屋の大根や魚屋のいわしや肉屋のすき焼き肉などと同等のもので、人びとはそれらを日々必要な日用品として買い求めている」。この隠喩は、本の実体を突く重要な一側面ですが、本に対する一般的な捉え方とはやや齟齬があります。その違和感を和らげるべく、福澤諭吉の『学問のすゝめ』から「日用の学問」の項について述べることにします。

『学問のすゝめ』の冒頭には、有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」の言説が掲げられています。福澤はそれに対して、「しかるに現実には貧富の差があるのは何故か」と問いかけ、こう答えます。その差は「学ぶと学ばざる」ことに由来する。ならば何を学ぶかと畳み掛け、「日常生活に役に立つことを学ぶべきである」と応じます。そして、どう学ぶかに考えを及ぼし、「他人の話しを良く聴き、自分でもよく考え、考えたことは他人に伝えることである」、さらに「本を良く読むことであろう」との所見を述べます。かくして、「本は日用品」という論に至るのです。

東北から全国にブームを発信
澁川雅俊:盛岡市に「さわや書店」という、元気な街の本屋さんがあります。その書店員だった田口幹人は、山あいにある本屋の跡継ぎでしたが閉店を余儀なくされ、さわや書店フェザン店で再出発を期し、圧倒的な熱量を放つ手作りポップやパネルなどを通じてベストセラーを生み出してきた人物です。『もういちど、本屋へようこそ』〔PHP研究所〕は、地域に読書文化を根づかせることを目指して行ったユニークな活動の他、中学校での読書教育や職場体験の受け入れ、図書館との協働などに取り組んだ足跡が記されています。また、全国の本屋さんが行う書店文化創成に向けた活動も紹介しています。


『本屋という「物語」を終わらせるわけにはいかない』〔松本大介/筑摩書房〕は、さわや書店フェザン店の店長だった著者が、「本離れ」に挑戦するべく奮闘した日々とともに、書店で働くことの楽しさについて綴った一冊です。とりわけ、同店の「文庫X」なるセールスプロモーションは秀逸です。心からお薦めしたい文庫本が売れずに悩んでいた書店員たちは、「いっそのこと、文庫本をビニールで丸ごと覆い、本の中身をわからなくしたら、お客さんが不思議がって手を伸ばすのでは」と考えます。かくして、前代未聞の〈覆面文庫本〉が店頭を飾ることになりました。


外から窺えるのは書店員直筆の推薦文のみ。書名や作家名はわからず、立ち読みもできない。しかし、本を熟知する書店員のお薦め本なので、はずれる心配は少ない。結果、思惑は見事に当たり、多くの人が手に取って中身を確かめることになったのです。この独創的な仕掛けはたちまち人気を博し、同店の文庫本販売が促進されただけでなく、全国の書店にも同様の取り組みが飛び火していきました。なお、「文庫X」の仕掛け人・長江貴士は『書店員X』〔中央公論新社〕で、このアイデアが生まれた背景を語っています。


『奇跡の本屋をつくりたい~くすみ書房のオヤジが残したもの』〔久住邦晴/ミシマ社〕は、正確には「頑張っていた」街の本屋さんの奮闘記です。著者は1999年、父の跡を継いで札幌にある小さな書店の主となりますが、赤字が続き、2015年には惜しまれながらも閉店となり、その2年後には自身も思い半ばで他界します。


「なぜだ!? 売れない文庫フェア」「中高生はこれを読め!」「ソクラテスのカフェ」などユーモアあふれる企画を次々と打ち出し、地元はもちろん、遠方の読者にも愛されたくすみ書房の試みは、一途に本を愛した書店人による「本離れ」の時代へのアンチテーゼでした。良書が日の目を見ずに死んでいく悪循環に抗い、独自の角度から切り込み続けた、著者渾身の遺稿集です。

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