記事・レポート
日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ
~ケロッグ経営大学院 モーニングセッションより
地球規模で「消費の未来」を見通す
更新日 : 2015年10月21日
(水)
第9章 「商いを通じた社会貢献」を世界規模で

JICAとの共同プロジェクト
鈴木啓: 現在は「商いを通じた社会貢献」を世界規模で実現するべく、様々なNPOや政府関係機関との連携にも積極的に取り組んでいます。フェアトレード、TABLE FOR TWO、ピンクリボン。それらの多くは「これがやりたい!」と、社員が声をあげてスタートしたものです。
当社では以前から、インド、ラオス、タンザニア、エジプトなど様々な国の生産者と一緒に活動を行ってきましたが、2010年末からはJICA(国際協力機構)との共同プロジェクトもスタートしています。きっかけは、ある社員がJICAの農村地域における地場産業振興を目指すプログラム「一村一品プロジェクト」(One Village One Product/OVOP)を知り、ぜひ協力したいと打診したこと。その後、ケニア共和国とキルギス共和国のプロジェクトが実現しました。これがなければ、キルギス共和国とのご縁は生まれていなかったかもしれません。そうした意味でも、国際的な機関との連携は非常に有意義なことだと感じています。
中国の西端に接したキルギス共和国は、山や高原に囲まれた自然豊かな国で、人口は約540万人、牧畜がとてもさかんです。ソ連崩壊後に独立し、経済の自由化が進められたものの、1人当たりGDPは約1,300ドルと貧しい国です。
その中で我々は、国の北西にあるイシク・クル湖周辺で活動する35の生産者グループと一緒に、現地の素材を使ったフェルト商品などをつくっています。JICAが生産技術の指導などを担当し、我々は商品企画のほか、生産工程や品質管理などの指導を担当しました。特にキルギスでは、女性が収入を得る手段が乏しいこともあり、現金収入の確保とともに、女性の社会的地位の向上にも役立っているそうです。
こうした支援活動で大切になるのが、現地の方々自身の手でビジネスを行えるようになること、つまり経済的な自立です。生産者の方々に「ほかにもお手伝いできることがありますか?」とたずねたところ、「様々な生産者グループを取りまとめるために、組織のマネジメントについて学びたい」という要望がありました。そこで、生産者の代表者に来日してもらい、マネジメントの研修を受けていただきました。その際、無印良品の有楽町店では、生産者の方々と、商品を購入されるお客様が直接コミュニケーションしてものづくりを行うワークショップも開催しました。
この活動は現在も継続しています。4年目を迎えた現在は量産可能な体制も構築されつつあり、現地の方々の創意工夫と努力により、生産量も大幅に増えています。

無印良品は水のようでありたい
鈴木啓: 2013年には、国連開発計画(UNDP)が主導する国際的なプロジェクト「ビジネス行動要請」(Business Call to Action/BCtA)において、アジアの小売業としては初めて認証されました。これは、2008年に発足した企業・政府・開発援助機関が集まるグローバルな会員ネットワークで、長期的視点からビジネスと社会貢献を同時に実現するモデルの構築を目指した世界的な取り組みです。
そのご縁から、国連グローバル・コンパクト(The United Nations Global Compact /UNGC)にも参加することになりました。こちらは、人権の保護、不当な労働の排除、環境への対応、腐敗の防止などに関わる10の原則に賛同する企業・団体で構成される世界的なネットワークです。また、途上国の民間事業支援を行う世界銀行グループの1つ、国際金融公社(IFC)の年次カンファレンスにも招待され、ワシントンで事例紹介を行い、その後も様々な面で私達の活動をサポートいただいています。
UNDPとのパートナーシップでは、ブータンの伝統技術である天然染を支援するプロジェクトにも参画しています。2014年10月、現地に我々の品質管理担当者やデザイナーを派遣し、交流を始めてしています。
このように、私達は「商いを通じた社会貢献」を世界に広げていますが、こうした活動の根底には私達が大切にしている次のようなステートメントがあります。
無印良品は水のようでありたいと思います。水は穏やかで、不可欠で、いつも人の傍らにあり、憩いと潤いを提供します。酒のような華やかさはなく、香水のように人々を魅了することはありませんが、純粋であり続けることで、全ての人々の普通の健やかさを保証し続けます。穏やかな水は、年月を重ねることで、山をも削り、時には大きな自然の力の現れとして岩をも砕く力を発揮します。そのような力を秘めながら、あくまで悠々と、世界の隅々へ、人々の求める場所に、広がっていきたいと考えています。
こうした想いを胸に、常に自然と人とモノの関係を考えながら、今後も世界のために少しでも役立つビジネスを行っていきたいと考えています。(了)
気づきポイント
●無印良品が海外に出る理由は、「素」を旨とする日本古来の生活に対する美意識を伝えるため。
●多様な人材を受け入れる上では、普遍的なビジョンを持ち、それに共感してもらうことが大切。
●地球規模で自然と人とモノの関係を考えつつ、消費の未来を見通す。それが無印良品の原点。
●多様な人材を受け入れる上では、普遍的なビジョンを持ち、それに共感してもらうことが大切。
●地球規模で自然と人とモノの関係を考えつつ、消費の未来を見通す。それが無印良品の原点。
該当講座

日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ ~MUJIのグローバル展開に学ぶ~
鈴木 啓(株式会社 良品計画 取締役・執行役員/生活雑貨部長)8年半にわたる海外事業の第一線でのご経験を交えながら、良品計画のグローバル展開についてご紹介いただきます。
日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ
~ケロッグ経営大学院 モーニングセッションより
インデックス
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第1章 消費社会に対するアンチテーゼ
2015年10月07日 (水)
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第2章 「わけあって、安い」に込めた想い
2015年10月07日 (水)
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第3章 「木・金・土」でつくられた第1号店
2015年10月07日 (水)
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第4章 海外第1号店はロンドンに
2015年10月14日 (水)
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第5章 日本から世界の「MUJI」へ
2015年10月14日 (水)
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第6章 欧州で感じた日本との違い
2015年10月14日 (水)
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第7章 グローバル人材を育てる仕組み
2015年10月21日 (水)
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第8章 なぜ、グローバルを目指すのか?
2015年10月21日 (水)
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第9章 「商いを通じた社会貢献」を世界規模で
2015年10月21日 (水)
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