記事・レポート

日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ
~ケロッグ経営大学院 モーニングセッションより

地球規模で「消費の未来」を見通す

更新日 : 2015年10月21日 (水)

第8章 なぜ、グローバルを目指すのか?


 
日本古来の生活の美意識

鈴木啓: 私達のビジョンの中に、「明晰で自信に満ちた『これでいい』を実現すること」「地球規模の消費の未来を見通す視点を持つこと」という言葉があります。

「これがいい」ではなく、「これでいい」。「これでなくてはいけない」というような強い嗜好性を誘う商品づくりではなく、無印良品が目指すのは「これでいい」という理性的な満足感をお客様に持っていただくこと。だから、「が」ではなく「で」なのです。

とはいえ、「で」にはどこか諦めているような、ネガティブな感じもあります。そのため、「明晰で自信に満ちた」という言葉を付けています。生産する背景や素材など、商品を取り巻くあらゆる事象に対して、お客様に心から満足していただける高いレベル、自信を持って「これでいい」と納得していただけるような商品づくりを実現するという我々の意思を表しています。

私達は、地球規模の消費の未来を見通しながら商品づくりを行っていますが、今もなお世界の消費活動は資源や環境、貧困など、地球規模の問題につながっています。

当社では日頃から「作り手のことも大切に考えよう」と語りかけています。例えば、ベストセラーの1つに、100%オーガニック・コットンの商品があります。一般的には「商品を使う人のために、農薬を使わない」と考えがちですが、我々の場合は「作る人のために、農薬を使わない」という考えが先に立ちます。作り手の健康はもちろん、生産地の環境にも配慮したものづくりです。また、最近は遺伝子組換え綿花も増えているため、正しい方法で生産する人達から素材を購入し、様々なサポートも行っています。



1984年に掲げたキャッチフレーズに、「色のまんま」というものがあります。例えば、アルパカの毛と言えば、皆さんは真っ白いものを思い浮かべると思います。当時、我々の先輩方が生産地のペルーに行ってみると、最初から白い毛を持つアルパカは全体の3%ほど、大半は黒や茶色などの毛をしていました。しかし、白い毛のほうが染色しやすく、高値で取引されるため、品種改良によって白い毛のアルパカが増えていたそうです。それはおかしいということで、我々は現地の生産者からフェアトレードでアルパカ本来の色のまま輸入し、販売しました。

ものを大切にするという意味から、長期間にわたって使える商品も多数つくっています。使い続けるうちに壊れてしまった時は、パーツのみの購入にも対応しており、約13,000種類をご用意しています。

「消費の未来を見通す」とは田中一光さんの言葉ですが、その背景には「素」を旨とする日本古来の生活に対する美意識があります。簡素が豪華に引け目を感ずることなく、その簡素の中に秘められた知性なり、感性なりが、むしろ誇りに思える世界。このような価値観を世界に発信すれば、もっと少ない資源で豊かな暮らしが実現できる。

こうした考え方を世界中の人達に届けたい。それが、私達が海外に出る大きな理由です。とはいえ、海外ではそれを前面に押し出すようなことはしていません。商品の品質、繊細さ、ていねいさ、簡素なデザイン。良い商品をつくり、背景にある情報をより良い形で伝え、良い店舗環境で商品をお届けすれば、日本の価値観は自ずと海外のお客様にも伝わると考えています。


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日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ ~MUJIのグローバル展開に学ぶ~

鈴木 啓(株式会社 良品計画 取締役・執行役員/生活雑貨部長)8年半にわたる海外事業の第一線でのご経験を交えながら、良品計画のグローバル展開についてご紹介いただきます。


日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ
~ケロッグ経営大学院 モーニングセッションより
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