記事・レポート

Hack the Body~障がいを「可能性」に変える

遠藤謙がつくる、人間を進化させる義足

更新日 : 2015年04月22日 (水)

第8章 すべての人に動く喜びを


 
未来を見据えたモノづくり

遠藤謙: 2016年10月、スイス・チューリッヒで「CYBATHLON 2016」が開かれます。これは障がい者がロボット技術などを駆使したパワードスーツや強化義足を身につけ、様々な競技を行うオリンピックのような大会で、僕はロボット義足での参加を目指しています。最先端技術が集う同大会は、健常者、障がい者という境目がなくなった“未来”を体感できるものとなるはずです。

僕自身、常に未来を見据え、そこに何が還元できるのかを意識しながら、研究開発を行っています。例えば、2020年には世界人口のうち9%が65歳以上の高齢者となり、2050年には16%まで上昇するそうです。近年、高齢化の進展とともに懸念されているのが、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群/通称ロコモ)の増加です。加齢に伴い、骨や筋肉、関節、軟骨といった運動器の1つ、あるいは複数に障がいが起こり、歩行など日常生活に支障をきたしている状態を指します。

ロコモの進行を防ぐには、できる限り身体を動かし続け、骨や筋肉を衰えさせないことが重要になります。その意味でも、僕は福祉やリハビリテーションの分野に、ロボット義足の技術が応用できると考えています。

現在は、イムス板橋リハビリテーション病院と一緒に、義足の技術を応用し、歩行補助装具を開発しています。入院時に寝たきり状態が続いた人は、機能回復のリハビリを行わなければ、次第に歩けなくなる可能性が高まっていきます。歩行のリハビリでは、足全体の動きを支える長下肢装具を使いますが、そこに簡単に取りつけられる歩行サポート装置をつくりました。この装置をつければ、骨折や軽度まひにより足を動かせない人でも、早い段階でリハビリが行えるようになります。こうした取り組みが、未来の社会に役立つ技術につながっていくと考えています。

義足技術の横展開

遠藤謙: 僕はよく、「横展開」という言葉を使います。義足の研究で生まれるナレッジを、より多くの人達に役立ててもらうべく、多分野に応用していく。その意味から、Xiborgでは「すべての人に動く喜びを」というビジョンを掲げています。人間にとって身体を動かすことは大きな喜びです。才能がない、障がいを抱えている、高齢だから。こうした理由により、その喜びを奪われてしまうことは、絶対にあってはならないと考えています。

Xiborgでは、第1段階として競技用義足の開発を行っていますが、今後は途上国向けの義足や高機能なロボット義足はもちろん、福祉やリハビリ、あるいはエンターテインメントの分野にも挑戦したいと考えています。義足を必要とする人だけでなく、健常者を含めたすべての人に、身体を動かす喜びを体感する機会や可能性を提供したいからです。

普通に考えれば、義足とエンターテインメントは結びつかないはずですが、私達はすでにトランポリンやホッピングを通じて、競技用義足と同じような体験をしています。その代表が、ドクター中松さんが開発した「フライングシューズ」です。非常に優れた商品だと思いますが、彼独特のキャラクターにより、ユニークさだけが際だってしまい、あまり普及しなかったことが残念です(笑)。

最近では「Powerizer」という商品も登場しています。膝下にバネのようなマシンをつけることで、トランポリンに乗っている時のように、地面の上で飛んだり跳ねたりできます。練習次第では2mもジャンプできるようになるそうです。人間の足にバネの機能を付加すると、高く飛んだり跳ねたりでき、普段とは違う感覚が楽しめる。これも身体を動かす喜びの1つだと思います。

また、三重県に「大和鉄脚走行会」という、健常者と義足の方々で構成された陸上チームがあります。ユニークなのは、健常者が自分の足を折り曲げ、膝下に模擬義足(競技用義足)をつけて走り始めたこと。これをつけると、かなり速く走れるそうです。このチームでは障がいの有無に関係なく、誰もが一緒に走ることを楽しんでいます。

今までできなかったことが、できるようになる。そうした喜びを求める気持ちに、健常者や障がい者といった境目は関係ないと思います。義足の技術を基点として、双方に喜ばれるモノを創り出すことが、健常者と障がい者という境目をなくすことにも役立つと考えています。


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