記事・レポート
			
			
			
					VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く
				
				地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一
			
				BIZセミナー教養文化
			
		
			
			更新日 : 2015年04月01日
				
				
				(水)
				
				
			
		
		
		
		第8章 ヴィジョナリーの巨人が描いた未来
 
				
				
					
					
					
				
				自然と共存共栄する農業
竹村真一: これまで、日本人は水田を通じて地球環境に貢献してきたわけですが、現代の水田が地球にやさしいかと言えば、そうとは言い切れません。多くの水田では、自然の理に適わない肥料や農薬が使われており、環境汚染や海の富栄養化などにつながっています。
東京ミッドタウンで開催した「コメ展」は、米を取り巻く現状への問題提起とともに、未来の農業や食のあり方についても、新しいアプローチを提案しています。
たとえば、現代の日本では、メダカやゲンゴロウが棲む昔ながらの水田が少なくなっています。そこで、和歌山で見つけた自然にやさしい水田にカメラを置き、「コメ展」の会場でライブ中継しています。水田は、米だけを育てる工場ではありません。本来は、さまざまな生物のゆりかごになるものです。私は、多様な動植物と一緒に米も育てるという共存共栄型の農業が、未来の宇宙船地球号の食を支える原動力になると考えています。
この企画展には、農業関連団体の方々も多数来場されていますが、「こういう未来を生み出したいですね」という感想をいただきました。食と農を担うプロフェッショナルの間でも、こうした共感を生み出せたことは、地球にとって1つの希望になると思います。
全国には、自然と共存共栄する素晴らしい農業をされている生産者がたくさんいます。彼らを応援するようなアクションを続けることで、「20年後はいまの延長線上ではない日本、地球にしたい」という方向に、マジョリティの流れを変えていけたらと思います。
 
				地球と人類の経済を接続する
薄羽美江: 先ほど登場した「宇宙船地球号」は、ヴィジョナリーの巨人であるリチャード・バックミンスター・フラー(※編注)が1960年代に生み出した言葉ですね。
竹村真一: 「どうして国連本部の前に、リアルタイムの地球を映し出せる地球儀がないのだ!」と、怒っていた方です。先日、私はニューヨークの国連本部で「触れる地球」を使った講演を行いました。数十年前のフラーの思いも引きつつ、「現在の科学技術は、このような地球儀をつくり出すことができる。それなのになぜ、国連本部には置かれないのか? なぜ、世界中の小学校に置かれないのか?」と問題提起をしました。
薄羽美江: 反応はいかがでしたか?
竹村真一: 嬉しいことに、皆さん熱狂的に反応してくれましたね
薄羽美江: バックミンスター・フラーは、人類の持続可能な生存方法を探り続ける中で、「冨の概念」を提唱しています。これは経済的な価値ではなく、人間の生命を維持・保護・成長させるための価値を「富」とする考え方ですね。
竹村真一: たとえば、太陽のエネルギーは水星や金星、火星にも分け隔てなく届けられていますが、これらの惑星では太陽エネルギーが有効に活用されていません。しかし、大気に包まれた地球だけは、光合成という生命の魔法により、太陽エネルギーが非常にクリエイティブな形で活用されています。だから、私はよく冗談で、「太陽は喜んでいるだろうね」と言っています。当たり前すぎて意識することはありませんが、これこそ宇宙的な価値創造ではないでしょうか。
フラーは「人類の経済の最大の問題は、地球の経済と接続していないことだ」とも語っています。こうした光合成の太陽経済も含め、人間の経済システムが自然の再生産能力にシンクロできていない。ここ数年、「つながり」という言葉が大流行していますが、それは人間同士、もしくは世界の資本主義市場がつながっているだけにすぎません。地球の営み(経済活動)と、貨幣を中心とした人間の経済は、いまだに接続していないのです。それは、人類の前に横たわる大きな課題だと思います。
薄羽美江: 経済とは、「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」という、経世済民という言葉に由来しています。おこがましいかもしれませんが、CPVの概念に照らせば、済う対象は人間だけでなく、地球そのものになる。持続可能な未来社会をつくっていくためにも、今後は地球視点・宇宙視点から考えることがますます大切になりますね。
- ※編注 
 リチャード・バックミンスター・フラー
 米国の建築家、デザイナー、思想家、発明家。1895年生まれ。大量生産・大量消費の時代の中で、生涯を通じて、人類の持続可能な生存を可能にする方法を探求した。1963 年に発表した『宇宙船地球号操縦マニュアル』(Operating manual for Spaceship Earth)は、地球の未来を予見するものとして高く評価されている。
 
 
VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く
 インデックス
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						第1章 なぜ、世界初のデジタル地球儀「触れる地球」は生まれたのか?
						2015年03月18日 (水)
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						第2章 地球観が“痩せて”いる現代人
						2015年03月18日 (水)
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						第3章 私たちは地球を食べ、地球を飲んでいる
						2015年03月18日 (水)
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						第4章 「触れる地球」と地球食〜漁業のバッドデザイン
						2015年03月25日 (水)
- 
						第5章 「触れる地球」と地球食〜食のバッドデザイン
						2015年03月25日 (水)
- 
						第6章 日本食は未来の地球食のOSになる
						2015年03月25日 (水)
- 
						第7章 地球価値創造〜Creating Planetary Value〜
						2015年04月01日 (水)
- 
						第8章 ヴィジョナリーの巨人が描いた未来
						2015年04月01日 (水)
- 
						第9章 未熟だからこそ、人類はさらに進化できる
						2015年04月01日 (水)
該当講座
2014年 第2回 未来の地球の「食」を読み解く
-地球価値創造の方法-
ゲスト講師:竹村真一(文化人類学者/京都造形芸術大学教授)。6月15日(日)まで東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHT で開催されている『コメ』展を、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏とともにディレクションされた文化人類学者・竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)を迎え『触れる地球ミュージアム』に込める想い、そして地球の「食」の未来についてお話いただきます。
						
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