記事・レポート
VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く
地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一
BIZセミナー教養文化
更新日 : 2015年03月25日
(水)
第4章 「触れる地球」と地球食〜漁業のバッドデザイン

広がり続けるオゾンホール
竹村真一: CO2やPM2.5の流れを見てみます。これらが大量に排出される大都市は、北半球に集中しています。そのため、「南半球はクリーンだ」と思われるかもしれませんが、この地球儀を見ると、夏季の南極上空は真っ赤に染まっています。オゾン層の破壊により、オゾンホールが広がっているからです。
上空25〜45kmにあるオゾン層は、有害な紫外線を吸収し、地球上の生物を守っています。オゾン層に穴が空く原因は、おもに北半球の都市生活から排出されたフロンガスです。先進国で使用が禁止されてから20年以上経ちますが、フロンガスの影響はいまだに消えていません。地球の裏側で起こる出来事であるため、多くの日本人はあまり危機感をもたないかもしれません。しかし、その影響は確実に私たちの食生活にも及んでいます。
世界有数の豊かな漁場である南極海域でオゾンホールが広がり、有害な紫外線が降り注ぐようになると、海の食物連鎖に異常が起こります。たとえば、魚に含まれるDHAやEPAは、海の食物連鎖の底辺をなす植物プランクトンが、光合成を通じて産出している成分です。こうした成分を魚が蓄積し、私たちがその魚を食べることで「健康に良い」と言っているわけです。
ところが、紫外線が大量に降り注ぐようになれば、植物プランクトンは光合成ができず、増殖も難しくなります。そうなれば、魚に含まれるDHAやEPAも少なくなる。さらに、魚の数そのものも減少してしまう。影響は地球全体に及び、海の生態系そのものを壊してしまいかねないのです。
失われつつある自然の再生能力
竹村真一: 水産資源の枯渇は世界的な問題となっています。このような温暖化やオゾンホールの影響もありますが、何よりの原因は、漁業のバッドデザインです。たとえば、マグロは一度に数千万個の卵を産みます。ほとんどは別の生命を養うものとして食べられ、植物プランクトンの増殖とあいまって、海の生態系の豊かさに貢献しています。このように、地球の自然は本来、生態系を通じた優れた再生産能力をもっています。
しかし、現在は漁獲される魚の8割以上が、一度も産卵していない幼い魚だと言われています。つまり、海の生態系がもつ再生能力を、人間による漁業のバッドデザインが壊し始めているのです。こうしたことがなければ、わずか数十年の間に水産資源が枯渇することなど、起こり得なかったと思います。
VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く
インデックス
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第1章 なぜ、世界初のデジタル地球儀「触れる地球」は生まれたのか?
2015年03月18日 (水)
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第2章 地球観が“痩せて”いる現代人
2015年03月18日 (水)
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第3章 私たちは地球を食べ、地球を飲んでいる
2015年03月18日 (水)
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第4章 「触れる地球」と地球食〜漁業のバッドデザイン
2015年03月25日 (水)
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第5章 「触れる地球」と地球食〜食のバッドデザイン
2015年03月25日 (水)
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第6章 日本食は未来の地球食のOSになる
2015年03月25日 (水)
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第7章 地球価値創造〜Creating Planetary Value〜
2015年04月01日 (水)
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第8章 ヴィジョナリーの巨人が描いた未来
2015年04月01日 (水)
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第9章 未熟だからこそ、人類はさらに進化できる
2015年04月01日 (水)
該当講座
2014年 第2回 未来の地球の「食」を読み解く
-地球価値創造の方法-
ゲスト講師:竹村真一(文化人類学者/京都造形芸術大学教授)。6月15日(日)まで東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHT で開催されている『コメ』展を、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏とともにディレクションされた文化人類学者・竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)を迎え『触れる地球ミュージアム』に込める想い、そして地球の「食」の未来についてお話いただきます。
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