記事・レポート

みうらじゅんの物集め紀行

それでも、やっぱり、これが好き♡

更新日 : 2013年11月21日 (木)

第7章 深遠なる「カスハガ」の世界

写真:みうらじゅん(イラストレーターなど)

 
どうかしてる絵ハガキ

みうらじゅん:  こちらは「カスハガ」です。絵ハガキの中でも、苦し紛れに作られたハガキです。京都や奈良など観光する場所がたくさんある場合は、10枚セットの絵ハガキも容易に作ることができます。しかし、どことは言いませんが、見どころが2つほどしかないのに、無理やり10枚セットを作ってしまう観光地があります。そうした時に、「なぜこれが」と思う写真が入ってしまいます。

こちらは、どこかの温泉郷の絵ハガキです。広い湯船におばあさまたちがビッチリとつかっている。頑張れば、あと1人、2人ぐらい入れるかどうか。当然、この絵ハガキが作られる前には、企画会議が行われたはずです。「やはり、ウチの地方なら、ここの温泉はお勧めしたい」「それなら、たくさん入っているほうが景気いいだろう」となった。「熟女ブームだしな」と。

こちらは、全国どこにでもありそうな埠頭で、釣りをする人たちを写した絵ハガキです。絵ハガキにする場所がなくなり、その埠頭で魚がよく釣れるからといった理由だったのでしょう。

おそらく、企画会議でアイデアが決まった後、担当者が夜寝ようとした時に、「単純に釣りをしている風景だけだと、寂しすぎるな」となり、翌日、写真の右上に釣った魚が入ったザルを合成した。さらに、いきなり入れるのも変だからと、ザルの後ろに影をつけようとなった。こうなるともう、上下左右がよく分からない、四次元の世界です。時空を超えた絵ハガキが誕生してしまった。

これは、鳥取にある温泉郷の絵ハガキです。ここに写っている橋の欄干に立つと、その下に露天風呂が見えます。ちょうど橋の欄干のところに、慰安旅行で来たような3人組の親父がいて、露天風呂の方向を見ています。おそらく、やましいことを考えていることでしょう。この絵ハガキには、親父たちの煩悩が写り込んでいます。こうした絵ハガキが家に届いて、「この温泉、行ってみたいな」などと思うのか、ということです。

「カスハガ」は、10枚つづりで流して見ていると気がつきません。しかし、1枚ずつじっくり見ていると、「これ、どうかしてるな」と分かってくると思います。どうかしてる、通称「DS」です。