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時代を撮り続ける写真家・篠山紀信の表現を探る

写真力とは何か?

キャリア・人文化
更新日 : 2013年01月24日 (木)

第2章 ウソのウソはホント

写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真中央:篠山紀信(写真家)写真右:松井冬子(画家)

 
「写真力」は、撮る側から仕掛けて高める

生駒芳子: 「写真力」とは撮る側が作るのか、被写体が作るものなのか、それとも両者なのでしょうか?

篠山紀信: 相手にパワーがなければ、良いものを撮ることはできないです。でも、放っておいても相手はそういうパワーを出さないもの。だから、こっちがテンションをガーン!と上げて……

生駒芳子: 仕掛けるーー。

篠山紀信: そう。女性だったら褒めそやす。「きれい! きれい! いいよ!」とか。それに今はね、デジカメだから撮ったらすぐに分かるじゃない。撮ったらすぐに見せる。たとえば「松井さん、これいいじゃない? これで行こう!」とね。そういう作業を積み重ねていくと、どんどんきれいになっていくものです。

生駒芳子: 引き出すということですね。

篠山紀信: そう、こちらもパワーも出す。向こうも出す。(被写体に)負けずにどんどんどんどんエスカレートしていくと、なかなか面白いものが撮れますね。

生駒芳子: 松井さんは、何度か篠山先生に撮ってもらったことがありますよね。撮られる側として、いかがでした?

松井冬子: 私の作品をバックに撮っていただいたことがありました。(※編注:『HILLS LIFE』2010年1月号<Hills Player>掲載。篠山先生の写真の撮り方は、空気が柔らかいです。一瞬だけ集中されて、あっというまにパッと撮られていました。集中する一瞬には、光が走るような空気感がスッとありました。気づいたら、それで終わりという感じでしたね。

篠山紀信: あの作品は、すごい絵ですよね。女性が足を開いて性器も描かれていて。あれを写さないようにするのが、大変だったんですから! 展示用の光があったから少しもらって、レフ板で下から反射すると、“おばけライティング”になり、とても絵と合っていた。だから、ストロボやライトなどは必要なかった。あの雰囲気の中でスッと。決まったら一瞬でいいんです。難易度ゼロね。

松井冬子: 2006年に雑誌『VOGUE」の表紙を先生に撮影していただいたときにも、下からライトを当てて幽遠なイメージで撮っていただきました。そのときのことも、印象深かったです。


化粧でウソをつく、写真でもっとウソをつく

篠山紀信: さきほど難易度ゼロと言いましたが、良く考えてみると、松井さんを撮るのは結構難しいね。

生駒芳子: どうしてですか?

篠山紀信: 松井さんはきれいだから、誰が撮ってもきれいに撮れるわけですよ。はなからきれいであったり、「さすが」と言われるものを撮るのは、実は難しいんですよ。

「ウソのウソはホント」と、僕はよく言っています。たとえば、「朝起きて歯を磨いているときのような、普段の表情を撮ったほうがホントだ」みたいなことを言う人もいる。僕はそれこそウソだと思う。きれいな人がきれいな姿で出てくるのがいいんですよ。きれいな人を、もっときれいにする。もっと、ウソをつく。化粧をすることがウソだとしたら、写真でもっとウソをつく。ウソの上にウソを重ねる。実は、それこそが本当にリアルな姿になるのです。

松井冬子: 最高の状態を、最高の作品にする。女優さんなどはキャラクタライズされたものだから、その美しさを最大限に写し出すには、力がないとできないですね。

篠山紀信: それが僕が長続きしている秘訣です。(笑)

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