記事・レポート
「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ
~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~
政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年09月14日
(金)
第4章 イスラム世界のスンニ派とシーア派が対立する理由

池上彰: イスラム世界で「スンニ派とシーア派の対立」というニュースがよくありますよね。なぜ対立するようになったのでしょうか?
ムハンマドが亡くなった後、信者たちは集団の中で一番信頼できる人物を後継者として選びました。これを「カリフ」と呼びます。カリフは「預言者の代理人」という意味です。2代目カリフ、3代目カリフと続いていったのですが、「『従弟で娘婿のアリーこそが後継者だ』とムハンマドは言っていた」と言う人たちが現れます。そこから対立が始まるのですが、4代目カリフにアリーが選ばれて、ひとまず対立は収まります。
しかし、「ムハンマドの血筋を引く者こそがカリフにふさわしい」と考える人たちは、アリーの息子たちにつき従うようになります。そしてアリーを初代の「イマーム」と呼ぶようになります。イマームとは「きちんとした教えを伝えていく指導者」という意味です。そして、アリーの息子たちが2代目イマーム、3代目イマームとなっていきます。
一方、「血筋に関係なく、コーランやハディース(ムハンマドの言行録)に書いてあることや、イスラムの慣習——これをスンナと言います——を守っていくことが大事だ」と考える人たちは、別のカリフを選びます。この人たちが「スンナ派」と呼ばれるようになります。なぜか日本のマスコミは、スンナの形容詞形のスンニを使って「スンニ派」と呼んでいますが、一般的にはスンナ派です。
一方、アリーにつき従う人たちは「アリーのシーア」と呼ばれるようになります。シーアは「党派」という意味です。最初は「アリーのシーア」だったのが、いつの間かアリーが抜けて、ただの「シーア」と呼ばれるようになります。これを日本のマスコミは「シーア派」と呼んじゃうんです。シーアは党派ですから、「シーア派」と呼ぶと「派派」と言っていることになります(笑)。
アラブ世界はスンニ派の人が多いのですが、イランはシーア派が主流です。しかもイランはアラブ人ではなく、ペルシャ人で、母語もペルシャ語です。しかし民族が違ってもシーア派は広がっていったため、イラクの東半分ぐらいもシーア派が主流ですし、サウジアラビアの南の一部やバーレーンにもシーア派が多数います。
(※Googleマップを参照しながら読むと、さらにわかりやすくなります。http://goo.gl/maps/qOzm)
なぜかシーア派の人たちは、石油資源が豊富なところに大勢います。これをシーア派の人たちは、「神様が我々のために石油をくださったのだ」という言い方をしますが、この石油のために、スンニ派とシーア派の対立が生まれやすくなっているのです。
実はイスラム世界のスンニ派とシーア派の対立というのは、宗教的な対立というよりは、「この土地は誰のものか」「この石油は誰のものか」という争いが多いのです。単純な宗教対立とは違います。
ムハンマドが亡くなった後、信者たちは集団の中で一番信頼できる人物を後継者として選びました。これを「カリフ」と呼びます。カリフは「預言者の代理人」という意味です。2代目カリフ、3代目カリフと続いていったのですが、「『従弟で娘婿のアリーこそが後継者だ』とムハンマドは言っていた」と言う人たちが現れます。そこから対立が始まるのですが、4代目カリフにアリーが選ばれて、ひとまず対立は収まります。
しかし、「ムハンマドの血筋を引く者こそがカリフにふさわしい」と考える人たちは、アリーの息子たちにつき従うようになります。そしてアリーを初代の「イマーム」と呼ぶようになります。イマームとは「きちんとした教えを伝えていく指導者」という意味です。そして、アリーの息子たちが2代目イマーム、3代目イマームとなっていきます。
一方、「血筋に関係なく、コーランやハディース(ムハンマドの言行録)に書いてあることや、イスラムの慣習——これをスンナと言います——を守っていくことが大事だ」と考える人たちは、別のカリフを選びます。この人たちが「スンナ派」と呼ばれるようになります。なぜか日本のマスコミは、スンナの形容詞形のスンニを使って「スンニ派」と呼んでいますが、一般的にはスンナ派です。
一方、アリーにつき従う人たちは「アリーのシーア」と呼ばれるようになります。シーアは「党派」という意味です。最初は「アリーのシーア」だったのが、いつの間かアリーが抜けて、ただの「シーア」と呼ばれるようになります。これを日本のマスコミは「シーア派」と呼んじゃうんです。シーアは党派ですから、「シーア派」と呼ぶと「派派」と言っていることになります(笑)。
アラブ世界はスンニ派の人が多いのですが、イランはシーア派が主流です。しかもイランはアラブ人ではなく、ペルシャ人で、母語もペルシャ語です。しかし民族が違ってもシーア派は広がっていったため、イラクの東半分ぐらいもシーア派が主流ですし、サウジアラビアの南の一部やバーレーンにもシーア派が多数います。
(※Googleマップを参照しながら読むと、さらにわかりやすくなります。http://goo.gl/maps/qOzm)
なぜかシーア派の人たちは、石油資源が豊富なところに大勢います。これをシーア派の人たちは、「神様が我々のために石油をくださったのだ」という言い方をしますが、この石油のために、スンニ派とシーア派の対立が生まれやすくなっているのです。
実はイスラム世界のスンニ派とシーア派の対立というのは、宗教的な対立というよりは、「この土地は誰のものか」「この石油は誰のものか」という争いが多いのです。単純な宗教対立とは違います。
「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ インデックス
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第1章 まずはアラブ世界とイスラム世界と中東の違いを整理しましょう
2012年09月10日 (月)
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第2章 キリスト教は、言わばユダヤ教の改革版
2012年09月11日 (火)
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第3章 イスラム教は、ユダヤ教とキリスト教の流れを汲む
2012年09月13日 (木)
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第4章 イスラム世界のスンニ派とシーア派が対立する理由
2012年09月14日 (金)
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第5章 中東問題とは?
2012年09月18日 (火)
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第6章 イギリスの三枚舌外交がアラブ世界をごちゃごちゃにした
2012年09月24日 (月)
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第7章 本当にFacebookがジャスミン革命を引き起こしたのか?
2012年09月25日 (火)
-
第8章 アラブ世界に広まる民主主義のジレンマ
2012年09月27日 (木)
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第9章 【番外編】池上彰が観た「アラブ・エクスプレス展」
2012年09月28日 (金)
該当講座
池上彰 (ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)
長期独裁政権下に置かれたアラブ諸国の民衆が、民主化を求め立ち上がった「アラブの春」。チュニジアから端を発した民主化運動は、隣国のエジプト、リビアに飛び火し、各国で続いた長期独裁政権を崩壊させる結果となりました。 アラブで起こった一連の民主化運動は、FacebookやTwitterなどのSNSが民衆....
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