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「キュレーター」がメディアとビジネスとイノベーションを変える

田中洋×津田大介×勝見明に学ぶ、キュレーション術

BIZセミナーマーケティング・PR教養
更新日 : 2012年05月31日 (木)

第7章 キュレーション力を鍛える方法


田中洋氏(左)津田大介氏(中央)勝見明氏(右)

田中洋: 津田さんは早くから著作の中で「自分が情報のハブになる」ということをおっしゃっていて、まさにキュレーションの概念を先取りしていると思いました。

津田大介: 今、キュレーションという言葉がバズワード的に盛り上がっていますが、僕は出版業界が長かったので「キュレーションって言わないで、編集でいいじゃん。何が違うの?」という感じが結構あるんです。

勝見明: 僕は50代後半なんですけれど、同世代にキュレーションの話をすると「それ、日本語で何ていうの?」と聞かれるんです。僕は「日本語だと、新しい編集だろうな」と答えています。

田中洋: 新聞社の整理部では、記事のタイトルを付けたり、紙面のどこに置くか決めたり、キュレーションのようなことをやっていますよね。こうした編集との類似もありますが、僕はキュレーション独自の概念があるとすれば「ものを見る目」だと思うのです。

例えば、スティーブ・ジョブズは1979年にゼロックス社のパロアルト研究所を見学し、そこでGUI技術を見て「これを商品化すればいいじゃないか!」とひらめいて、マッキントッシュをつくりました。シュンペーターは「新しい組み合わせがイノベーションだ」と言いましたが、ジョブズには「これはピンとくる、ピンとこない」という、ものを見る目があったと思うんです。

津田大介: ものを見る目を鍛える具体的な方法論を、お客さんは知りたいでしょうね。僕はものを見る目は、属人的なものなのではないかと感じていますが、鍛え方はあると思います。

田中洋:  SECIモデルの暗黙知に相当する蓄積がたくさんあると、知らない間にピンとくるようになるのではないでしょうか。

スターバックスのハワード・シュルツは、もともとはニューヨークで家庭用品会社の副社長兼ジェネラルマネージャーをしていたのですが、西海岸のシアトルに行ったとき、ヒッピーみたいな若者がコーヒー屋をやっているのを見て「これおもしろい」と思ってスターバックスに入ったんです。その後イタリアに行ってエスプレッソバーを見て「これをアメリカに持っていったらいいんじゃないか」と考えたそうです。

ニューヨークと西海岸や、アメリカとイタリアというような、違ったカルチャーの間を行き来した経験を持つシュルツは、そこでの情報差を利用してクリエイションに結びつけたのではないでしょうか。組み合わせの妙じゃないかと、僕は思うのです。

津田大介: 暗黙知を自分はどうやって鍛えたんだろうと考えると、僕は書き手としてだけでなく、ずっと編集もやってきているんですね。99年に編集プロダクションを立ち上げて、編集長として企画を立てたり、コーディネートしたり、いろいろやってきました。

独立したとき、1つだけルールを決めました。それは「自分がやったことのない、知らない分野の仕事がきたら、100%引き受ける」ということです。もちろん仕事は大変になるわけですが、そういう仕事が自分の知的な体力を増やしてくれるのではないかと考えて、たとえギャラが安くても、新規のジャンルの仕事だけはやってきました。そうしていろいろトライ&エラーしていく中で得たものが、今、キュレーション的なものに生きている感じがします。

田中洋: キュレーションをやるためには、ある程度、新しいものを強制的に取り込むプロセスも必要ということでしょうか?

勝見明: 僕も未知の領域の仕事は、ギャラに関係なくやりますね。何か新しいものを取り込むと、自分の頭の中の何かと結びつけることができるかもしれませんから、新しいものを取り込むのは大切なことだと思います。強制的に取り込まないといけないこともあるでしょうが、こういうセミナーに出席して意図的に取り込むこともできますね。

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スティーブン・ローゼンバウム【著】田中洋【監訳・解説】野田牧人【訳】
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該当講座

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田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )
勝見明 (ジャーナリスト)
津田大介 (ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

田中 洋(中央大学ビジネススクール教授)
勝見 明(ジャーナリスト)
津田 大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
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