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野中郁次郎氏が語る、未来を経営する作法~美徳のイノベーション~

VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar

更新日 : 2010年10月01日 (金)

第5章 ホンダの「ワイガヤ」に学ぶ、場づくりのプロセス

野中郁次郎氏

野中郁次郎: 賢慮型リーダーシップの2つ目の能力「場をタイムリーにつくる能力」。これは6つの能力の中で最も重要です。なぜなら知を生み出す時空間は必ず必要ですが、「場の本質とは何か」を考えることが重要だからです。

複数人で知をつくっていくとき、一人ひとりはそれぞれ違う主観を持っています。それを対話、実践、共感を通じながら共有して、もっと大きな主観にしていく「相互主観性(intersubjectivity)」という概念があります。これは、現象学の創始者フッサールが提唱したコンセプトです。

客観から主観は生み出せませんが、主観から客観は生み出せます。我々のモデルだと、人それぞれの思い、直感、経験が、周りの人の主観と共振・共鳴・共有、場合によっては葛藤する。それを通じて「普遍」に昇華していくことを「相互主観性」というようです。

場をつくるには会議や飲み会をやったり、電子メールやTV会議を使ったり、いろいろな方法がありますが、最も典型的な場のマネジメントは、やはりプロジェクト・チームの結成でしょう。

面白い事例があります。ホンダの「ワイガヤ」という場です。プロジェクトが編成されると、多くの場合「ワイガヤ」が行われます。このプロセスは理論ではなく実践から生み出された知恵だと思うのですが、改めて理論化してみると、まさに未来創造という重要な意味合いがわかってきます。

「ワイガヤ」は大体泊まりがけで行われます。初日は個のぶつかり合いで、上司の悪口や「何でこんなことをやらなきゃいけないんだ」という不平不満など、さまざまな対立項が出てきます。ケンカも葛藤も起こりますが、泊りなので逃げ場がありません。そのため全人的に向かい合うほかありません。1時間もすればうわべの形式知は尽き、自己中心の殻がとれてきます。

すると根底にあるガッツといいますか暗黙知といいますか、「そもそも我々は何のために存在するのか」という存在論で勝負するようになります。それぞれが主観的、身体的な知をベースにして向き合い、共振・共鳴・共感する状況になるのです。

2日目には、お互いに違いを認め合い、差異を乗り越えて大きな普遍性を追求しようとなってきます。そして3日目になると、うまくいけば相互主観性ができ、建設的思考、コンセプトの飛躍が生まれる可能性が生まれます。ただし、100%の保証はありません。

場づくりの究極の目的は、より高い次元で自他の区別から解放され、より大きな創造的な主観性を獲得する状態を生むことだと思います。

そのときに重要なのは触れ合う(touching)ことです。メルロ=ポンティは例として、右手で左手に触れると、最初は右手が左手に触れているように感じるが、やがて左手が右手に触れる感覚を持つと言いました。つまり、感覚は相互浸透し合うと。それは人と人との関係でも成立するのではないでしょうか。触れ合うことは、相互主観性を生み出す基盤なのです。

言ってみれば、身体の復権です。我々は間身体性を媒介にして対話しています。今日の顧客のニーズやウォンツについて言えば、ニーズは見える化できても、ウォンツはさらに存在の根底にかかわる問題ですから顧客自身にもわからない。顧客の視点に立つには、どこかで身体性を共有することが重要なのです。

身体の共振・共鳴・共感は、全人的に相手と向き合い、触れ合い、つくり合うということが非常に重要なのです。しかし、我々は間身体性というものを日常の中で失いつつあります。
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野中郁次郎 (一橋大学 名誉教授)

野中 郁次郎(一橋大学 名誉教授)
2007年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌で「The most influential business thinkers(最も影響力のあるビジネス思索家トップ20)」に選出された野中郁次郎氏のご講演です。


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