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「世界のアンドー」の発想力と実行力はどこから生まれたのか

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更新日 : 2008年02月07日 (木)

第3章 便利さに浸っていると、自ら創造する力を失う

安藤忠雄

安藤の手掛けた建築のエピソードやリクエストを辿っていくと、その独創性がよくわかる。

あるとき、大阪の経済界から安藤に「京都や神戸から人を集める仕掛けを考えてくれ」というリクエストがあった。安藤が提案したアイディアは、海中にネットを張りシャチを3頭飼うこと。経済界も国交省も面白いと賛成したが、大阪市は難色を示した。シャチを3頭飼育するのに年間1億2000万円かかる。そんなややこしいことはしたくない、というわけだ。

水族館の水槽ではなく、海のなかを自由に泳ぐシャチの姿が見られるのならば、おそらく年間300万人は集まるだろう。もしも、シャチが逃亡して川を遡上したら、多くのメディアが追いかけて日本中がシャチに釘付けになるはずだと、安藤は冗談交じりに語るが、その目は真剣そのもの。この計画は実現していないが、安藤はまだ諦めてはいない。

米倉誠一郎_安藤忠雄
さて、印象に残る家の話をもうひとつ。1988年に「予算2700万円で、画廊とアトリエと広い西洋風呂のある自宅を造ってくれ」というリクエストがあった。「夢と現実のギャップがあまりにも大きいので引き受けた」というところが、いかにも安藤らしい。天井の高い画廊とアトリエ、その上が自宅という構成のプランはできたが、広い西洋風呂まではとても取れない。そこで、施主を近くの銭湯に案内し、「これを自分の風呂だと思えばいい」と説いたという。アトリエや画廊には来客用の階段があるが、3階の自宅から下りる階段はハシゴである。実は安藤の事務所にも1階から5階までハシゴがある。かなり危なそうだが、未だかつて落ちた所員はいないという。

こうした発想や設計からは「便利なことばかりに浸っていると創造力が失われる、創造力は身近なところから生まれるものだ」という安藤の考え方がうかがえる。ちなみに、安藤自身も「便利なものに頼ると頭を使う機会が少なくなるから」と、パソコンもカードも携帯電話も原則として持たない。

(文・フリーライター 太田三津子)


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