記事・レポート

カフェブレイク・ブックトーク「辞書、辞典の季節」

更新日 : 2008年07月02日 (水)

第10章 辞典や辞典を編纂することは大事業、にもかかわらずケチがつく

 『出逢った日本語・50万語-辞書作り三代の軌跡』 『明解物語』

澁川雅俊: ここまでは辞典・辞典そのものについてお話ししました。ここから少しばかりそれらの編纂にまつわる本の話を少しばかりします。

辞典類の編纂は、大げさに言えば森羅万象をわしづかみにしてその全体を表すことなので、苦労も多いしちょっとした間違いが起こることもあります。例えば、『明解物語』(柴田武監修・武藤康史編、01年三省堂刊)は三省堂の『明解国語辞典』や『出逢った日本語・50万語-辞書作り三代の軌跡』(松井栄一著、02年小学館刊)と『国語辞典はこうして作る-理想の辞書をめざして』(松井永一著、05年港の人刊)などは辞書編纂の大変さを素直に語っています。とくに後者の2つは祖父・父・本人と三代にわたって『日本国語大辞典』(小学館)の初版と第2版の編集委員をつとめた人たちの苦労話です。

『国語辞典はこうして作る-理想の辞書をめざして』
なおこの手の本では、世界最大の英語辞典Oxford English Dictionaryの完成に費やされた70年の物語『オックスフォード英語大辞典物語』(サイモン・ウィンチェスター著、苅部恒徳訳、04年研究社刊)があります。英語辞典に関しては18世紀半ばに独力でそれを編纂したサミュエル・ジョンソンが知られていますが彼自らが語っているように辞典づくりは「辛気臭い仕事」だと思われますが、そういう仕事を長期にわたって続けた人たち、いままたそれを続けている人たちに私は敬意を表します。なにせこの人たちが私たち日常生活者の知的展開の環境基盤を造ってくれたし、現に今それにかかわっているからです。なおジョンソンについては最近、『ジョンソン博士の英語辞典-世界を定義した本の誕生』(ヘンリー・ヒッチングズ著、田中京子訳、07年みすず書房刊)が出されています。

ところでこのOEDは、日本語の国語辞書になぞえると『日本国語大辞典』に匹敵する特大英語辞典(全12巻、オンライン版提供)です。ところで辞典としてそれらをくらべてみると、ことばの解説にちょっとおもしろい違いがあることが分かりました(※11)。

(※11)必要があって、「本」ということばを日本国語大辞典がどう解説しているかを調べてみたことがあります。その結果、〈本〉の項には「おおもとになるもの」、「書籍、書物など」とありました。そのときはそれについての本質が何かに関心があったので、この解説では満足できず書籍、書物の項を引いてみたところ、〈書籍〉には「書物、本、図書」、〈書物〉には「書籍、本、図書」、

そして〈図書〉には「絵画と書物。多くは書物・書籍の総称」と、実にあっさりしたものでした。そこで世界の英語辞典とされているOEDを調べてみると、〈book〉ということばのさまざまな意味が縷々連ねられていた中に、「複数の紙面もしくはその他の素材面に書写または印刷された書き物で、それを読むためいついかなる場所でも開くことができるように〈背〉と呼ばれる一端で綴じられ、ある種の素材で保護されている一個の物体」(私の訳)という解説がありました。

結局私の意図したこと、つまりコンテンツのことを含めた「本」の総体の本質についてどうとらえているかについては、いずれの辞典でも満足できませんでした。しかし極めて“分析的”なOEDの記述が印象的で、また刺激的で、そのことについてくわしく考えてみようとう意欲がかき立てられました。わずか一つのことばでそう決めてしまうわけにもいきませんが、以来私は何かを突き詰めて考えてみようとするとき、そのことに関するさまざまな本を読み始めるまえに、まず日本国語大辞典で調べ、次いで必ずそのことばに相当する英語のことばをOEDで調べることにしています。

関連書籍

明解物語

武藤康史
三省堂

出逢った日本語・50万語—辞書作り三代の軌跡

松井栄一
小学館

国語辞典はこうして作る-理想の辞書をめざして

松井栄一
新宿書房

オックスフォード英語大辞典物語

サイモン・ウィンチェスター
研究社


アカデミーヒルズのFacebook
アカデミーヒルズのTwitter

おすすめ講座

おすすめ記事