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ビジネス・チャレンジ・シリーズ
「分身ロボット」がつなぐ未来

人工知能にはできない「孤独の解消」を目指す

更新日 : 2017年11月14日 (火)

第4章 未来を生き抜くには何が必要か?


「自分しかわからない」から価値がある
前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)


前刀禎明: 素晴らしい話をありがとうございました。吉藤さんってドラえもんみたいな人ですね(笑)。いろいろな人にOriHimeの話をすると、「スマホでいいんじゃないの」という人が必ずいます。フラットな画面からイマジネーションは生まれにくいと思いますが、目の前にあるものでしか判断できない人が多い。

吉藤健太朗: 私も同じことを言われ続けてきました。でも、それが逆にチャンスだと思いました。自分にしかわからない価値なんだ、と。

前刀禎明: 自分にしかわからない価値、それが大事だと思います。ニーズを探ることから大ヒット商品は生まれません。ところで、孤独を解消するパートナーとして、「AIスピーカー(人工知能を搭載したスピーカー)」をどう思いますか。

吉藤健太朗: 私もAIを研究していたから、欲しくなる気持ちはわかります。こちらの要望を何でも聞いてくれる召使いのように使うならいいでしょうね。でも、一緒にテレビを観てくれるAIスピーカーってできるのでしょうか。OriHimeの向こうに人間がいるから、相手を意識して会話をします。でも、会話している相手が100%AIだとわかったら、相手の気持ちを深読みすることは放棄するでしょうね。

前刀禎明: 「存在感」が違いますね。OriHimeのささいな動きにもその人の気配を感じる。この感覚はすごく大事だと思います。これを突き詰めて、たとえば、体温を持たせたりしたら面白いかも……。

吉藤健太朗: 今、開発中の大型のOriHimeなら、もっといろいろなセンサーを入れることはできます。人間に感知できない感覚を入れて第六感、第七感にすることもできる。ただ、私は、人間にとって五感が本当に一番いいバランスだろうか、という疑問ももっています。もしかすると、四感、三感に減らして、その分を想像力で補うほうがコミュニケーションの壁が低くなるかもしれない。情報を増やすこともできます。顔を認識すると相手のプロフィールがぴゅっと出てくるとか……。これができると人の名前を覚えなくてすむ(笑)。

VRは孤独の解消に役立つか?



前刀禎明: 世界中に分身ロボットを置いて、世界中に瞬間移動するという発想は面白いですね。VR(バーチャル•リアリティ)が流行ったとき、疑似体験で満足して海外旅行に行く人が減ると言う人がいましたが、現場に行かなければ得られない体験がある。さてそこで、孤独の解消に対してVRは使えると思いますか。

吉藤健太朗: 手段としてはあると思います。でも、VRはステップであってゴールではありません。今のVRはひとりで楽しむことが多いけれど、オンラインゲームのようにVR空間に誰かが居てくれるといいかもしれません。ちなみにオンラインゲームの問題点は、リアルな経済力を持つことができなかったこと。もし、経済力が確保できるなら、親も文句を言わない(笑)。リアルよりも自信をもって働けるかもしれません。

前刀禎明: 私は、VRのヘッドマウントディスプレイがダメですね。不自然だと思う。持論ですが、余計なモノを身に付けるウエアラブルのコンセプトはダメだと思っています。

吉藤健太朗: 同感です。私はウエアラブルよりインプラントに興味があります。

小さなことにも喜びを感じられる感受性を

前刀禎明: OriHimeを使って一番よかったことはなにですか。

吉藤健太朗: その人自身もまわりの人も存在感を感じられたことですね。現実にここに居るときの存在率が100%、いないときが0%として、分身ロボットは80%くらいの存在率があるんじゃないかと思います。存在感とは、コミュニケーションのリアクションだと思います。

前刀禎明: AIやIoTなどの最先端技術はみんな大好きですが、どこに向かうかがカギになると思います。たとえば、トイレにセンサーが搭載され、自動でフタがあき、終われば自動で水が流れる。室内は一年中適温適湿に保たれる。確かに便利で快適だけれど慣れれば当然になってしまう。最先端技術は、人の暮らしを便利にするためだけにあるのではないと私は思っています。テクノロジーの方向性は「プレジャー•サスティナビリティ」(喜びや感動を持続させること)であってほしい。

吉藤健太朗: そうですね。ちなみに、私は一日一食主義。一日一食だと沢庵だけでもご飯が美味しい。人は便利に慣れると合理化します。小さなことにも喜びに感じられる感受性こそ、いい意味で、子どもでいられるポイントじゃないかと思います。

将来、仕事は有限資源になる
前刀禎明: 私たちの前にどんな未来が広がっていくのでしょうか。たとえば、今、子どもたちにプログラミングを学ばせたい親が増えている。21世紀型スキルとして必要だから、とね。でも、プログラミングこそAIがもっとも得意な分野。未来がどうなるのか、よく見極めないといけない。

吉藤健太朗: 将来は課題が少なくなるうえ、AIが取って代わる仕事も増えるでしょう。労働は有限資源となり、恵まれた人しか職に就けなくなるかもしれません。人間は誰かに必要とされたいものです。仕事に就けず、「生き甲斐難民」が増えるのではないか、そうならないようにしなければいけない。

前刀禎明: 教育にも問題がありますね。課題を与えて解決させるより、自ら課題を発見し、自分自身で人生を切り拓く力を身につけさせるほうがいい。そういう生き方を実践してきた吉藤さんがアドバイスするとしたら?

吉藤健太朗: 徹底的に考えること。決めつけと諦めから心を解き放てば、いろいろな可能性が生まれます。そして、無いものは自分でつくる。「これがあったらいいのに」と気づいたらすぐつくる。どうしたらパッとつくれるかも知っておいた方がいい。必要なのは深いテクノロジーではなく、応用力です。もうひとつ大切なのは、誰の真似もしないこと。「将来何になりたい?」と聞かれて、「ユーチューバーになりたい」という子どもはたぶんなれない。世の中にないことを挙げる子どものほうが優れている。

前刀禎明: 有名予備校に通っている子どもたちに聞くと「将来、バイオをやりたい」と言います。「バイオで何をしたいの?」と突っ込むと答えられない。たぶん、親から将来の有望分野だと聞かされているのでしょう。好きだからやりたいのではなくて、有望だからやりたい。それはどうかなと思いますね。
吉藤健太朗: 「何になりたいか」ではなく、自分は「どんなことをやりたいか」が大事。若い頃から大体のテーマを決めていたほうがいいですね。

考えるときは一人で。そして考え続けること
前刀禎明: 新しいものをつくったとき、まわりから「よくわからない」と言われると嬉しくなります(笑)。

吉藤健太朗: 私もそう。理解者が100人中10人もいたら多すぎます。1人か2人いればいい。一人もいないと寂しいけれど(笑)。私は、ものを考えるときは必ず1人で考えます。「皆で考えよう」は昔から嫌いでした。皆で考えると妥協案になり、ぶっ飛んだものは生まれません。

前刀禎明: 日頃、考えている人たちがアイディアを持ち寄るならばともかく、集まってから考えるのはまずダメですね。新しいものを生み出す人は、この話を聴きながらもなにか考えているし、ヒントを得ている。大切なのは、まわりの意見や価値観、固定概念に縛られず、まずは自分自身が心から喜べることをする。そして、常に自分で考える。吉藤さんは、そういうふうにして夢のあるプロジェクトを実現したのだと思います。(了)


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「分身ロボット」がつなぐ未来
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今回のビジネス・チャレンジ・シリーズでは、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発する吉藤健太朗氏をゲストにお招きします。町工場との協働で「OriHime」を製品化させてきた吉藤氏に、独自にビジネスを開拓してきた経緯をお話いただくことで、新しいビジネスを始める上でのヒントを得ます。


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