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ビジネス・チャレンジ・シリーズ
「分身ロボット」がつなぐ未来

人工知能にはできない「孤独の解消」を目指す

更新日 : 2017年11月14日 (火)

第2章 人工知能は、人間を癒すことができるのか?


孤独を癒すことは人間にしかできない
吉藤健太朗(ロボット•コミュニケーター/分身ロボットアーティスト、株式会社オリィ研究所 代表取締役所長)


吉藤健太朗: 「孤独の解消を生涯のテーマにしよう」と思った私が最初に考えたのは人工知能でした。人工知能を研究するため、香川県の国立詫間電波工業高等専門学校に編入します。当時は、犬型ロボット「AIBO」や人と会話するロボット「Ifbot」、アザラシ型ロボット「パロ」など、人工知能を使って人を癒すロボットセラピーが、ロボット界の流行だったのです。

私自身も「友だちがいなくても、ロボットを友だちにすればいいや」と思っていました。しかし、「本当に人工知能で癒やされるのか?」と、私のなかの何かが囁きかけます。振り返れば、私が不登校から復帰できたのは久保田先生との出会いです。「本当の意味で人を癒やすことは人間しかできない」という結論に至りました。人工知能の研究はとても面白かったのですが、高専を退学。イメージできるものはつくれますが、イメージできないものはつくれません。

2007年、早稲田大学に推薦入学します。しかし、入りたい研究室がありません。今、着ている「黒い白衣」も自分でつくったものですが、「ほしいものなければ自分でつくる」が、私のモットー。2009年春、6畳一間のアパートに「オリィ研究室」を設立。1年半ほど引きこもって分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」をつくりました。


「離れていても一緒に居られる」〜OriHimeが提供する価値



吉藤健太朗: OriHimeは人工知能も音声認識機能も搭載していません。人が遠隔操作するロボットです。「なんだ、ただのラジコンじゃないか」と思われるかもしれませんが、このロボットを自分の分身として人と人の間に置くことで、「孤独というストレスを解消する」ことができます。

iPadやiPhoneで操作すれば、その場にいなくてもOriHimeの視界でまわりを観ることができます。簡単な動作や言葉でまわりの人とコミュニケーションも図れます。入院していても、自分の分身として学校に置けば、授業を受けることができる。友だちと話したり、遠足だって連れていってもらえるかもしれない。自宅に置けば、家族とお正月を過ごしたり、一緒にテレビを見たり、おしゃべりしたり、共通の体験や思い出をもつことができます。

「その場にいなくても参加できる。それによって自分の居場所があると感じ、周りもその人の存在を感じられる」。それこそが孤独を解消することであり、私が本当にやりたかったことです。だから、身体的問題や距離を克服し、家族や友人と一緒にいることによる癒しを提供する分身ロボットを開発したのです。

病院の無菌室に隔離された小学2年生の男の子とご家族に、3週間、OriHimeを使ってもらいました。家に置いたOriHime と病室とは24時間接続されています。男の子はOrihimeを通して家の様子を見たり、話しかけたり、家族の日常を身近に感じとることができます。

彼は「家族と一緒にテレビを見たことが楽しかった」と言います。「家族と一緒に」という一体感が嬉しかったのだと思います。ご家族も「OriHimeの動きを通じて子どもを身近に感じることができ、家族全員が精神的安心感を得られた」と答えています。

4年間不登校だった16歳の女の子は、自分の代わりにOriHimeを転校先の学校に通学させ、友だちをつくりました。しばらくして友だちから「学校に来てほしい」と言われ、学校に復帰することができました。分身ロボットを使えば、重度の難病であっても、授業はもちろん、皆と一緒に買い物をしたり、コンサートやスポーツ観戦に行ったりすることもできます。


行きたい場所に瞬間移動。ドラえもんの「どこでもドア」

吉藤健太朗: 遠くから式典に参加することもできます。海外の出張先からOriHimeで結婚式に出席した人がいます。「分身ロボットでの出席」という珍しい試みに座が盛り上がったことはもちろんですが、それ以上に重要なことは、本人にも新郎新婦などの受け入れ側にも、「結婚式に出席できた」、「彼が出席してくれた」という確かな記憶が形成されていたことです。

私は、海外にもOriHimeを持って行きます。面白い体験もいろいろしました。言葉が通じなくて困っていたら、OriHimeで随行していたロンドン大学の友人が通訳してくれる。そのうちに、私が話していた相手とOriHime(=ロンドン大学にいた友人)が意気投合し、私抜きで会話が弾んでしまったのです。

OriHimeがあれば、在宅でも入院中でも仕事ができます。オリィ研究所には、脊椎損傷で寝たきりの社員が毎日OriHimeで出社しています。筋ジストロフィーで歩けない人も週3回アルバイトをしています。出勤中は常時接続状態ですから、一緒に朝礼やランチをしたり、休憩時間に雑談をしたり、出勤している人と同じ密度のコミュニケーションが可能です。
育児や介護で毎日出社できない人も仕事を続けることができます。産休等からの職場復帰の障害となっている心理的壁も低くなるでしょう。今までのテレワークは情報のやり取りでしたが、OriHimeを使えば、家に居ながらカウンセリングや講演、接客までほとんどのことができます。世界中に分身ロボットを置けば、どこにでも瞬間移動しながら仕事や講演ができるのです。まるでドラえもんの「どこでもドア」のように。

このテレワーク•ロボット「OriHime Biz」の法人レンタル(月額3万円)を昨年から開始しました。さまざまな理由でオフィスに出社できない人たちのテレワーク•ツールとして使われています。

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「分身ロボット」がつなぐ未来
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今回のビジネス・チャレンジ・シリーズでは、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発する吉藤健太朗氏をゲストにお招きします。町工場との協働で「OriHime」を製品化させてきた吉藤氏に、独自にビジネスを開拓してきた経緯をお話いただくことで、新しいビジネスを始める上でのヒントを得ます。


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