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小さな一歩が世界を変える!

「医療」「教育」で世界を変えるニッポン人

更新日 : 2016年06月13日 (月)

第3章 日本の「外」にある医療の現実


 
助かるはずの命さえ助からない

吉岡秀人: 心臓や脳の病気、糖尿病、血液のがんと言われる白血病など、この世界には生まれながらにして様々な病気を持った赤ちゃんがたくさんいます。ミャンマーにある僕の病院にも、あらゆる病気を持った子ども達がやって来ました。

ある日、生まれて数日の赤ちゃんがやって来ました。一見してお腹がパンパンに膨らんでいましたが、実は生まれた時から肛門がありませんでした。日本でもこうした赤ちゃんは生まれてきますが、設備が整った病院で出産するため、すぐに手術をしてもらえます。この子は、最初は母親のお腹から元気に生まれ、おっぱいも飲んでいましたが、突然お腹が膨らみ始め、元気がなくなっていきました。

食べることはできても、出すことができない。何が起こるかと言えば、腸が破れて腹膜炎を起こします。お腹の中は無菌ですから、そこで感染症を起こし、やがて死んでいきます。あるいは、ご飯が食べられなくなり、ひどい脱水状態が起こり、死んでいきます。

母親と父親、祖母の3人は赤ちゃんを抱え、まだ夜も明け切らない時間、ミャンマー最北の農村を出ました。そこから、すし詰め状態のバスに乗って8時間、最初の大きな町にある病院に行くと、医者からこう言われます。「ここでは診ることはできない。北ミャンマーで一番大きな病院に行け。そこに子どもの病院がある」。

再び超満員のバスに乗り、5時間かけて次の病院に到着すると、辺りはもう夕方。診察した医者は、「あなたの子どもには手術が必要だ」と言います。そして、次にかけられる言葉はいつも同じです。「お金はいくら払えるのか?」。日本では信じられない話ですが、保険制度のない国では医療費は全額負担です。これはミャンマーだけでなく、ベトナム、カンボジア、ラオスでも同じです。

ミャンマーは農業国で、地方の農村に暮らす人の収入は非常に乏しく、手術代など到底払えません。するとどうなるか? 子どもを抱いたまま、来た時と同じ道をたどって家に帰り、そこで子どもが死ぬのを静かに待つのです。

この家族も諦めて家に帰ろうとした時、医者が呼び止めました。「イラワジ川の向こうに、日本の医療チームが来ている。もしかしたら診てもらえるかもしれない」。それから、家族は2時間かけて川を迂回し、僕のところにやって来ました。夜の10時を過ぎた頃でした。

赤ちゃんは非常に危ない状態でしたが、まずは命を救うため、お腹を開いて腸を引っ張り出し、一部をカットして中身を全部出しました。それほど時間のかかる手術ではありませんが、これだけで命が助かる確率はグッと上がります。その後、数回の手術を経て、お腹の中にある腸を脇腹にもうけた人工肛門につなげると、最後は元気になり、家族そろって家に帰って行きました。

結婚して間もない頃、日本で暮らしていた妻が僕の様子を見に来ました。その時も同じような病気の子どもに処置をしていましたが、危険な状態だった子どもが、さほど難しくない処置をしただけで元気になる。それを見た妻は「命がこれほど簡単に助かるとは思わなかった」と言いました。逆に言えば、それほど簡単な処置さえ受けられずに、たくさんの子どもが亡くなっている。日本から一歩外に出れば、世界にはそうした現実が広がっています。
 
心臓病の子を救うプロジェクト

吉岡秀人: 心臓病を持った赤ちゃんは100人に1人の確率で生まれてきます。多くは形の異常で、手術をしなければ、遅かれ早かれ命を落とすことになります。

ミャンマーの人口は日本の半分ほどですが、子どもは日本と同程度、少なくとも毎年100万人は生まれています。つまり、心臓病の子どもが毎年1万人も生まれてくる。それに対し、小児専門の心臓外科医の数は、ゼロ。手術さえすれば助かるはずなのに、1人も助からない。

僕は小児外科医ですが、心臓はいじりません。多くのお母さんから「助けて」と懇願されましたが、どうしようもなく、ずっと目をつぶってきました。現地では手術はできず、日本に連れてきて手術をするためには1,000万円以上かかります。

しかし、この課題もようやく解決の目処が立ちました。東京女子医科大学と、大阪にある国立循環器病研究センターの小児循環器科、そして、国内外の心臓病の子どもを救う「明美ちゃん基金」をサポートする産経新聞社を巻き込み、新しいプロジェクトを立ち上げたからです。具体的には、日本から医者を派遣し、現地で医療活動を行いながら小児専門の心臓外科医を育てる、また、ミャンマーの医者を日本に招いて研修を受けてもらい、心臓病を中心とした小児外科医を育てるプロジェクトです。

僕1人ができることは限られています。しかし、現在ある仕組みや組織を活用すれば、できることは何十倍、何百倍、何千倍にも広がります。また、日本の医者や看護師の中には「自分が役に立つのなら、海外に行ってでも働きたい」という思いを持つ人達がたくさんいます。僕はその思いをうまく利用させていただきながら、活動の幅を広げています。



該当講座


小さな一歩が世界を変える! 
~「医療」×「教育」で世界に挑戦する日本人イノベーター~
小さな一歩が世界を変える! ~「医療」×「教育」で世界に挑戦する日本人イノベーター~

吉岡秀人(小児外科医・ジャパンハート)×三輪開人(e-eduication)米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
社会的変革で途上国を変えようとする日本人イノベーターがテーマ。吉岡氏と三輪氏はミャンマーで出会い「医療」×「教育」で新しいイノベーションを引き起こそうとしています。“入院中の子供たちに映像による教育を提供する”ことにより子供たちに将来、未来、夢をもたらすことです。今までの各々の活動、そして新しい出会いがもたらした新たな取組みの可能性、社会的インパクトについて多面的に考えます。



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