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日本のソフトパワー
発信力・交渉力を高める“文化の力”

近藤誠一・前文化庁長官が語る

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年02月25日 (水)

第2章 重要視される、ソフトパワー

近藤誠一氏

 
民主主義、中間層、IT革命

近藤誠一: 近年、ソフトパワーが重要視されるようになった背景について考えてみましょう。

1点目は、民主主義を志向する国の広がりです。自由を手にした市民は、多くの情報に触れてさまざまな考えをもつようになり、選挙や請願などを通じて、自らの考えを政策に反映しようと働きかけます。市民が政治に対して、直接的に影響力を発揮できる基盤が整いつつあり、政府としても世論を無視して政策決定を行うことが難しくなっています。そのため、外交においても相手国世論に働きかけるソフトパワーが重要視されるようになりました。

2点目は、中間層の爆発的な増加です。中国、インド、ブラジルなどを筆頭に急激な経済発展を遂げた国では、所得の増加や生活水準の向上により、多くの人が娯楽や文化を求めるようになり、海外からの情報に接し、また海外旅行に出掛ける人も増えています。つまり、ソフトパワーのターゲットとなる層が増えているわけです。

3点目は、IT革命です。現在は、あらゆる情報が瞬時に地球の裏側まで届けられます。また、フェイスブックやツイッターなどSNSを通じて、市民が横につながり、政治に大きな影響を与える事例も増えています。市民レベルでのボーダレスなコミュニケーションの拡大、あるいは、政府と市民の関係性の変化も、ソフトパワーの重要度を高める要因となっています。

もう1つ加えたいのは、国連憲章2条4項において、武力による威嚇・武力の行使を禁止していること。現在は正面切って「戦争だ!」とは言えず、「自衛です」「内政問題です」と言わなければならない。実際には、この条項は機能しているとは言い難いのですが……。いずれにしろ、建前としてはモラルの防御壁があり、武力、つまりハードパワー以外の方法で国益を増やさなければならない。その流れから、ソフトパワーが注目されるようになったのだと思います。

武力で押さえつけた場合、相手は一時的に服従の姿勢を見せるかもしれませんが、必ず反発が生まれます。また、経済的な支援・買収では、金の切れ目が縁の切れ目になるかもしれません。このあたりに、ハードパワーの限界があると思います。

ソフトパワーは違います。最初から利害関係が伴わず、かつ理性ではなく、感性に訴えかけ、相手を魅了する。そのため、一度でも日本のファンになってもらえれば、大きな間違いを起こさない限り、末永く協力してくれるようになります。この持続性こそ、ソフトパワーの最たる特徴だと思います。


認識のズレを把握する

近藤誠一: ソフトパワーがターゲットとするのは、相手国民の感情・認識であり、目的はそれを好転させることです。しかし、感情や認識は目に見えるものではないため、非常につかみどころがないものでもあります。相手国で世論調査を行えば、片鱗は見えてくるかもしれませんが、それだけでは十分ではありません。

また、文化や価値観の違いから生じる「認識のズレ」も、大きなポイントになります。たとえば、

・A国の人が自国に対してもつイメージ
・A国の人がB国に対してもつイメージ
・B国の人が自国に対してもつイメージ
・B国の人がA国に対してもつイメージ

2国間の認識だけでも、4つの種類があります。そのなかで共通の認識が多いほどズレは小さく、少ないほどズレが大きいとなります。この部分を見極めることが大切です。

自国や相手国を過大評価、もしくは、過小評価しているかもしれない。また、自国から発せられた情報に何らかのバイアスがかかり、本来の意図と異なるメッセージが相手国民に伝えられているかもしれない。その意味でも、ソフトパワーやパブリック・ディプロマシーを考えていくうえでは、相手国民との認識のズレを把握することが大切になります。

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今後の日本の経済発展、国際競争力向上のためにも重要な役割を果たすと考えられているソフトパワー。その役割と日本の発信力、交渉力について近藤氏に伺います。


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