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世界が注目! 舘鼻則孝が描く日本文化の未来

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更新日 : 2014年06月04日 (水)

第1章 母の手作り人形が感性を育てた

世界のファッション・アイコン、レディー・ガガを象徴する「ヒールのない靴」。その制作を手がけるのは、若きデザイナー・舘鼻則孝氏。花魁が着用した高下駄を最先端のファッションへと昇華させたこの靴は、世界のセレブを魅了するばかりか、ニューヨークやロンドンの著名な美術館に永久収蔵されるなど、アートピースとしても高い評価を受けています。「日本らしさ」を武器に世界で戦う舘鼻氏の考えるファッションの未来とは? ものづくりの先端にいる氏ならではのメッセージを発信してもらいました。

スピーカー:舘鼻則孝(アーティスト)

舘鼻則孝(アーティスト)
舘鼻則孝(アーティスト)

 
自分のモノサシをもつ

舘鼻則孝: 日本人は日常的にアートに接する機会、あるいは日本出身のアーティストを応援する機会が非常に少ないと思います。そのため、「アートの見方や楽しみ方が分からない」と言われる方もたくさんいます。本日は<六本木アートカレッジ>ですから、僕は皆さんがアートを勉強するためにここに来た、という認識でおります。

文化・芸術活動に携わる人間として、僕が皆さんにお伝えしたいことは「自分のモノサシをもち、自分の目でものを見て判断し、自分なりの意見を言えるようになってほしい」です。それはアートだけでなく、ファッション、スポーツ、音楽など、あらゆる分野において当てはまることだと思います。僕のお話がそのためのヒントになれば幸いです。

ご存じの通り、僕は「ヒールのない靴」を作っています。一見、奇抜なデザインだと思われるかもしれませんが、実は皆さんにもなじみ深い日本の文化から生まれた靴です。この靴にまつわるエピソードとともに、創作のバックグラウンドとなる生い立ちから、現在取り組んでいる活動、そしてファッションやアートの未来についてお話ししていきます。



銭湯とウォルドルフ人形

舘鼻則孝: 舘鼻家は、1970年代まで新宿・歌舞伎町で「歌舞伎湯」という銭湯を営んでいました。現在はビルに変わっていますが、当時は祖父や父が映画『千と千尋の神隠し』に出てくる釜爺のように、ボイラー室で汗をかきながら働いていました。その後、自宅は鎌倉に移りましたが、いまでも当時の思い出話を聞くことがあります。

母親は人形作りの講師や人形作家として活動しています。母の作る人形は、シュタイナー教育の思想にもとづいて作られる「ウォルドルフ人形」といいます。目は小さな点で示され、口もかろうじて分かるほど小さい。なぜかといえば、この人形は子どものさまざまな感情を受け止めるパートナーだからです。嬉しいことがあれば、一緒に喜んでくれているように見え、悲しいことがあれば、一緒に泣いてくれているように見える。そのために、あえて目や口はシンプルに作られています。

ウォルドルフ人形を抱くと、人間の体のように硬い部分と柔らかい部分が感じられます。中に詰める素材はすべて羊毛で、その密度により、硬さの強弱を出しています。たとえば、子どもが母親の手を握ったとき、柔らかい部分と硬い部分を感じますが、なぜそうなのか、口で説明するのはなかなか難しい。そうしたことを感覚的に学んでいこうとするのが、シュタイナー教育の考え方でもあります。

僕も、幼稚園まではこの人形で遊んでいました。しかし、小学生になり友達の家に行くと、ウルトラマンやゴジラのフィギュアがあるわけです。僕はなかなか買ってもらえない。ゴジラが大好きだった僕は、いつもねだっていました。するとある日、母が作ってくれました。シュタイナー教育の思想にもとづいて作られたゴジラの人形を(笑)。

とても可愛いのですが、友達の家に行き、キングギドラとこの人形を戦わせるわけにもいきません。ですから、自分でお金を貯め、最終的にフィギュアを手に入れました。僕の幼い頃の思い出です。

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