オピニオン・記事

石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月09日 (木)

第2章 本質は情報生態系のなかにある

石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts

 
優れたビジョンは生き続ける

石井裕: テクノロジー、ユーザーニーズ、ニーズに応えるアプリケーション、そのどれもが、ものすごいスピードで変化し続けています。そうした不連続変化の中で、強い力を持つ本質的なビジョンは、我々の生存期間すら超えて生き続け、世界に影響を与え続けていくと思います。

たとえば、ヴァネヴァー・ブッシュ(※編注1)が1945年に発表したメメックス(memex/memory extender)。これはハイパーテキストの根本となったビジョンです。このビジョンにインスパイアされたのがダグラス・エンゲルバート(※編注2)です。彼は1950年代に「集合知」(Collective Intelligence)という壮大なビジョンを描き、NLSという革新的なオンラインシステムを生み出しました。

強力かつ本質的なビジョンは、たとえ現時点では実現するための手段(テクノロジー)がなくても、次の世代がビジョンに刺激を受け、その実現に必要な新たなテクノロジーを生み出してくれる。だからこそ私は、力強いビジョンを描きたいのです。ビジョンを描くためには、普遍的な原理は何かを問い続けることが大切になります。

情報は流水

石井裕: 現代社会では多くの人が日々、大量の情報を処理し、生産しています。多様な機器・装置が、私たちの暮らしのなかに入ってきていますが、かつて情報は、機器や装置のローカル記憶装置内に集約され、そのなかですべてが完結していました。しかし、いまや機器や装置は、本質的なオブジェクトではなくなっています。本質は、機器や装置の先に広がるネットの世界、情報の生態系(eco system)の中にあります。注目すべきものは情報の高速な流れ、その流れを支える情報生態系、さらにその先にあるソーシャルシステムなのです。

私のデイジタルライフを図解した、この情報の生態系の図の一番上には、クラウドがあります。次がパーソナル・コンピュータ。その下に、スマホ、最後にタブレットがあります。いまや情報はあらゆる場所に存在し、あらゆるマシンから取り出せます。そしてさらに、情報は共有されたがっており、利活用されたがっています。「情報は流水である」とは、それを説明するメタファーです。それをツイートとして140字以内にまとめると、次のようになります。




情報を共有することは、第一歩に過ぎません。共有した上で、積極的に人々が利活用できるようにすること、さらに、他者が作り上げた情報を自分なりに咀嚼し、新しい価値として発信すること、これが情報の循環を加速します。常に新たなものを取り込み、循環させていく……まさにソーシャルな文脈としての「情報流水循環系」です。

水は、とてつもないスピードで流れ続けています。水際にいては、全体像は見えません。ズームアウトすること、高高度に飛翔することで、大局的な流れ、循環の仕組みが初めて見えてきます。本物の水も、地球という閉空間のなかで、雲となり、雨となり、川や海となり、激しく循環し続けています。同じように、情報も循環しており、私のツイートもリツイートされたがっています。私のツイート自身に意思があり、力があるからです。リチャード・ドーキンス(※編注3)が「ミーム」(meme)を通して論じた「利己的な遺伝子」と同様のコンセプトです。生物は単なる遺伝子情報の乗り物であり、情報は遺伝子を介して何世代にもわたり生き延び続けるのです。

この講演を通じてみなさんの中に気づき、思いが生まれたら、それを力いっぱいツイートしてください。私が嬉しいだけでなく、次の学びや創造へと発展していきます。言葉は何百年も情報の生態系の中に残ります。この世から我々が存在しなくなっても、未来の社会で我々の会話を解読し役立ててくれる人がきっといるはずです。

※編注1
ヴァネヴァー・ブッシュ
米国のアナログ・コンピュータ科学者。元MIT副学長。1945年に発表した論文の中で、情報の記録・保存・検索を可能とする「memex」というビジョンを提唱。後に、WWW(World Wide Web)など「ハイパーテキスト」開発の端緒となった。

※編注2
ダグラス・エンゲルバート
米国の発明家。1960年代に初期のマウス、ハイパーテキスト、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)などの開発を主導。1968年、現在のパソコンを予感させる「NLS」を発表。彼の研究開発は、膨大な知を結集した「集合知」(Collective Intelligence)により、人類の抱える大きな課題を解決するというビジョンのもとで行われた。

※編注3
リチャード・ドーキンス
イギリスの生物学者。世界的なベストセラーとなった『利己的な遺伝子』(The Selfish Gene)の中で、文化の伝達や複製の基本単位として「ミーム」(meme)という概念を発表。遺伝子は生物を形成する情報、ミームは文化を形成する情報としている。

石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより インデックス


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Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms

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石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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