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「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵

もっと深くアートを感じるために、ちょっと深くアートを考える

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年10月12日 (金)

第7章 アートと社会の関係

竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)

竹中平蔵: 先生は「イ・ブル展」のどの作品に、どのようなことをお感じになりましたか?

姜尚中: 竹中先生は、生魚の作品《壮麗な輝き》に「とても感動した」とおっしゃっていましたね。僕はむしろ、それについて先生のお考えを伺いたいのですが。

竹中平蔵: 先生がおっしゃったように、アートというのは極めてパーソナルなもので、直接的に社会に結びつけるような見方をしてはいけないと、私も思います。しかし私たち人間は社会の中でしか生きられませんから、パーソナルなものというのは、どこかで社会とつながっているわけです。

《壮麗な輝き》は、生魚にキラキラした装飾を施した作品で、魚は途中からどんどん腐っていくのに対して、装飾はキラキラしたままです。キュレーターの解説によると、朽ち果てていく醜いものと、いつまでも美しいもの、変わるものと変わらないもの、そういうコントラストが表現されているということです。この作品は1997年にニューヨークのMoMAに出展されたのですが、異臭のためにすぐに撤去されてしまったそうです。

1997年というのは、アジア通貨危機が発生した年です。私はエコノミストですから、グローバリゼーションの光と影、輝かしいものと厳しいもの、そういうものを彼女は直観的に感じてこういう作品をつくったのではないかと考えると、とても感じるものがあったのです。

姜尚中: そうですね。おっしゃるように、この作品の光と影は、彼女の心の動きも示していると思います。通貨危機に見舞われた韓国社会の、非常にアレゴリカルな(寓意的な)意味が込められていると思います。

私がとりわけすごいと思ったのは、展覧会場の最後の作品《秘密を共有するもの》です。彼女が飼っていた犬が亡くなるのですが、その犬の口からいろいろなものが出ている作品です。これが53階の窓に向かって展示されていて、展望も含めてアート空間になっているのです。彼女の中にある、ある時代を生きた人間の、有象無象の何か吐き出したいものが一挙に出て、それが窓の向こう側の東京の夜の空間につながっているというイメージに、僕はとても感動しました。

それからサイボーグなどが展示されていた「Beyond Human(人間を越えて)」というセクションも印象的でした。これは今日的なテーマだと思います。例えば今後、万能細胞が出てきたとき、人間の証は何になるのか。脳なのか、あるいは脳細胞のどこかに刻み込まれた記憶なのか。これまでの人間のコンセプトが変わっていくということを、私は彼女の作品に感じました。

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該当講座

六本木アートカレッジ・セミナー
感動する力~アートを感じる・アートを考える~
姜尚中 (東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

姜尚中氏×竹中平蔵氏
 芸術は我々に勇気や感動、新たな発想を与えてくれ、豊かで潤いのある時間を我々は過ごしています。しかし、そこにはアートを感じる力、どのようにその作品、モノに接するかという我々の姿勢が重要になってきます。今回のセミナーでは、姜尚中氏に経験をもとに、アートを感じる力についてお話いただきます。また、後半の竹中平蔵氏との対談では、アートが社会に与える影響そして社会で担う役割・可能性についても発展させます。


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