記事・レポート

美術館館長と経済学者が熱く語る「アートの新たな可能性」

南條史生×竹中平蔵 in 六本木アートカレッジ

更新日 : 2012年04月17日 (火)

第1章 震災に対して、アートにできることは何か?

最近「六本木アートナイト」のように街中で行われるアートイベントが増えたと思いませんか? こうしたイベントは日本だけでなく、世界各地で多数開催されています。今、アートは街おこしや都市戦略として注目されているのです。アートが持つ社会的な力について、美術館長と経済学者というユニークなコンビが熱く語ります。


講師:南條史生(森美術館館長)
講師:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)

南條史生(左)竹中平蔵氏(右)

竹中平蔵: 慶應大学のグローバルセキュリティ研究所に「アートと社会」というユニークな講座があります。これは森ビルさんから寄付をいただいて開催しているもので、私が文化経済学の立場から、南條さんがキュレーターの立場から講義をして、アーティストにも来てもらって、アートと社会をみんなで考えるという講座です。きょうはその公開講座として、これからアートをどう楽しんでいったらいいのか、アートに一体何が必要なのかを会場の皆さんとご一緒に考えていきたいと思います。

最初に南條さんから、アートと社会の関わりについて、今回の東日本大震災に対する森美術館の事例も含めてお話いただき、その後で対話をいたします。

南條史生: はい最近、街の中に展覧会が出ていくというアートイベントが増えてきています。ここ六本木でも「六本木アートナイト」をやっていますし、別府や十和田市でも開催されています。横浜にはアートイベントで街を変えていこうとしている街区もあります。慶應大学の「アートと社会」講座では、こうした事例を取り上げて、アートと社会の関わりを議論しています。とはいっても、こうしたテーマで話すに当たって、今年(2011年)は東日本大震災を無視することはできませんので、いくつか森美術館の事例をご紹介しましょう。

震災直後から「大変な被災状況が見えている中で、美術館に何ができるだろう」と考え、まず決めたことは「美術館を通常通り運営する」ということでした。どんな分野についても言えることですが、活動を止めたら、経済、文化、生活の活動がさらに悪化してしまうと考えたわけです。

そして震災から約2週間後に「いま、アートの力でできること」というタイトルでシンポジウムを開催し、東京の文化発信機能を考えるとともに、被災地にとってのインターネットやITの役割や意味などを、文化庁長官やITジャーナリスト、企業家の方々と議論しました。それと同時に「Art for LIFE」という掲示板サイトを立ち上げて、被災者を支援するアート活動の情報を共有できるプラットフォームをつくりました。アート関係者がお互いに何をやっているか見えるようにして、協力し、知恵を出し合えるようにと考えました。

さらに震災から約1カ月後には「東日本大震災チャリティ・セール」として、国内外のアーティストに声をかけて作品を送ってもらい、美術館の中で販売しました。これにはオノ・ヨーコさんや、奈良美智さんも参加してくれました。

さて、議論もした、寄付もしたということで、次のステップとして7月23日に「今、明日の日本をデザインする」というタイトルで、最前線で復興に挑む方の取り組みや、今後の課題を語るチャリティ・トークセッションを開催しました。竹中先生や被災地に隣接する住田町の町長、国土交通省、経済産業省、文部科学省、文化庁の代表、復興のアイディアを募った新聞社の担当、デザイナー、アーティスト、伊藤豊雄さんをはじめとする建築家グループ「帰心の会」など、そうそうたるメンバーが意見交換をすることができました。

もともと美術館は動けませんから、被災地に出て行って何かできるというものではありませんが、支援活動のプラットフォームとして後方支援することはできるのではないか、というのが私の考えです。重要なのは、この大震災を受けて「どういう社会をもう1回つくるのか、前と同じ社会でいいのか」ということを考えることです。未来を見据えて新しい社会を考えることに関しては、むしろ美術館ができることなのではないかと思っています。

竹中平蔵: 心に残る、被災地での話があります。震災から間もないころに現地入りしたジャーナリストが被災者に「何が欲しいですか?」と聞いたら、最初に「水が欲しい」という答えが、二番目に「食べ物が欲しい」という答えが返ってきた。でも次に出てきたのは「歌が欲しい」という言葉だったそうです。「人間らしく生きたいんです」と。

ニーチェは「芸術こそ至上である。それは生きることを可能ならしめる偉大なものである」という有名な言葉を遺しています。極限状況にあっても「歌が欲しい、人間らしく生きたい」というのは、アートが持つ社会的な力を表していると思います。

ほかにも、こんな事例があります。地球上から貧困と飢餓をなくすという国連のミレニアム・プロジェクトは、最初は世界からの関心が集まらなくてうまくいかなったそうです。でもU2のボノがその方針に共感して、私の友人でもある指導者のジェフリー・サックスという有名な国際経済学者と一緒に世界を回るようになったら、資金が集まり、プロジェクトが進むようになったのです。このように、アートは人間を豊かにするものであると同時に、すごく社会的な力を持っているのです。

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  六本木アートカレッジ「アートの新たな可能性」

今求められているのは、経済的な豊かさ以上に心の豊かさ。それは個人レベルだけではなく国家レベルでも同じではないでしょうか。だからこそ、ソフトパワー(文化や政治的価値観、政策の魅力など)が注目されています。
その中心的役割を担うのがアート。社会、政治、経済と密接な関係にあるアートが、未来の社会でどのような可能性を持つのでしょうか。森美術館の南條館長とアカデミーヒルズの竹中理事長に対談していただき、アートがいかに社会と深く関わっているか、そして、ソフト・パワーがいかに国策として
重要になっていくかの議論を通じて、アートと社会の関係性について考えてみたいと思います。

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