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グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

辻野晃一郎氏が語る「真のグローバル企業」とは?

アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2011年10月25日 (火)

第6章 イノベーションは「非合理、非常識、泥臭い」

辻野晃一郎氏

辻野晃一郎: 時代をつくっていくのはイノベーションで、イノベーションはリスクをとらないと絶対に起きません。そのためにはチャレンジマインドが非常に重要です。今の日本の問題は、国も企業も個人もリスクをとらなくなってきていることじゃないかと思います。例えば震災前、日本企業が内部留保している現金は400兆円とも500兆円とも言われていました。しかしこれらはリスクマネーとして成長領域への投資に還流していません。あり余るキャッシュがイノベーションを起こすための原資として使われていないと言えると思います。

合理的なことをやっている限り、イノベーションは絶対に生まれません。昔、ソニーは会社がつぶれそうになるリスクをとって、軍事用のクロマトロン技術を改良して民生用のトリニトロンブラウン管の量産技術を確立し、イノベーションを生んだのです。不合理なこと、非常識なことをやるからイノベーションが起きるのです。

しかし、単にアイディアや技術を生むだけではイノベーションになりません。それが大勢の人たちに理解され、受け入れられ、その人たちの生活が変わるという形で広まって、初めてイノベーションといえるのです。そのためにはものすごく泥臭い、現場の地道な努力が必要です。

Googleは一見、インターネットの華やかな会社に見えるかもしれませんが、実はものすごく泥臭いんです。例えば「Google ブックス」は、紙の本を一点一点スキャナーで取り込んで、オフラインだった情報をオンラインで検索できるようにしたのです。そんなことは考えついたとしても、普通は誰もやらないでしょう。「YouTube」はコンテンツの権利者に怒られまくりながら、著作権を侵害している映像を発見する技術を地道に開発すると同時に、「YouTubeを使うと、どれだけ生活が変わるか」「どれだけあなたにとって有利になるか」ということを一所懸命に説明する活動を水面下でやって、JASRACやテレビ局などに少しずつ理解してもらっていったのです。こうした地道な努力を積み重ねることで、少しずつイノベーションとして成立していくのです。 

「画期的なものでパラダイムを変えるんだ!」「どうだ、すごいだろう」と高飛車に威張っていても、決してイノベーションは成立しません。開発面でも啓蒙活動面でも、地道に行動して理解を広めるのが重要なので、イノベーションというのは、ものすごく泥臭いことなんです。

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辻野晃一郎
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パラダイム・シフトを生きる ~真のグローバル企業とは~

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辻野晃一郎 (アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)

辻野 晃一郎(アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)
ソニーとグーグルという時代を象徴する2つの企業において、「アナログからデジタルへ」、「ウォークマンからiPodへ」、「マイクロソフトからグーグルへ」という多くのパラダイムシフトが起きた時代の変化の渦中を駆け抜けてきた辻野氏に、真のグローバル企業にとって必要なことは何かを伺います。


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