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グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

辻野晃一郎氏が語る「真のグローバル企業」とは?

アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2011年10月18日 (火)

第2章 生態系で勝利したiPodに、高性能デバイスで挑んでも意味がない

辻野晃一郎氏

辻野晃一郎: 日本はモノづくりが得意で、世界一高品質なモノをつくって輸出することで、世界第2位の経済大国になりました。しかし、既に世の中の競争の土俵は完全に変わっています。

ソニーが生んだウォークマンは、音楽を外に持ち出して聞くという新しいライフスタイルをつくり上げて、あっという間に世界を席巻しました。アップルはそれをiPodという「デバイス」に置き替えたわけではありません。アップルはクラウドと親和性の高いiTunesという音楽の新しい土俵をつくって、そこにiPodというデバイスをもってきたのです。本質はそこで、重要なのは「生態系」です。

携帯音楽プレーヤーの音質をどんなによくしても、バッテリーをどんなに長持ちさせても、ウォータープルーフにしても、生態系のところで勝負できなかったらiPodやiPhoneには勝てないんです。クラウドと連携した新しい生態系をちゃんとつくり上げて初めてデバイスの価値が出てくるのです。

発想の転換を迫られているのは、別に家電の世界だけではないと思います。私は東京スカイツリーを見るたびに、太平洋戦争のときに戦艦大和を造っていた日本軍を思い出すんです。航空機の時代に戦艦を造って、あっという間に沈められましたよね。デジタル放送に合わせて電波塔をつくるということは理解できるのですが、放送の苦戦が叫ばれて久しいのに、本当にああいう塔をつくるのがいいのか。それともデータセンターをたくさんつくってネット環境を充実させるのがいいのか。国家戦略としてどこまで議論されたのかよくわかりません。もちろん、建築学的には技術の粋を集めた素晴らしいものなのでしょうが、今、例えばシリコンバレーの人たちなどはほとんど放送波は見なくなってきています。

つくっている物の本質はあまり考えないで、デバイスだけよくするというような日本的な流れがあるのではないでしょうか。あらゆる業界において、20世紀のやり方が通用しなくなりつつあるのに、日本人はいまだに20世紀のやり方に固執しているような気がします。

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辻野晃一郎 (アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)

辻野 晃一郎(アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)
ソニーとグーグルという時代を象徴する2つの企業において、「アナログからデジタルへ」、「ウォークマンからiPodへ」、「マイクロソフトからグーグルへ」という多くのパラダイムシフトが起きた時代の変化の渦中を駆け抜けてきた辻野氏に、真のグローバル企業にとって必要なことは何かを伺います。


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