記事・レポート
サマーダボス会議 in 大連 報告会
~弱体化した日本の発信力。回復への提言
更新日 : 2009年11月04日
(水)
第6章 環境やアニメに対する日本の認識と、世界の認識は違う
竹中平蔵: 今回は環境についてのセッションが多く、テクノロジーとグリーン・エコノミーという言葉がたくさん聞かれました。
グリーン・エコノミーについて非常に印象的だったのは、「中国との協力の枠組み」という言葉が頻繁に使わていたことです。技術協力もあるだろうし、投資協定もあるでしょう。要するに世界各国は今、経済成長に苦しんでいて、中国の活力をいかに取り込むかが自国の成長のための最大の課題だと考えているのです。
そのためには中国をいかにしてグローバル・アジェンダの中に取り込んでいくかを考えないと、現実は動きません。世界の環境問題の要諦は中国の環境問題である、ということはもうみんな分かっています。
日本はアメリカやヨーロッパに比べたら、中国には地理的にも文化的にも近いし、歴史もあるということで、これまでは日本がアドバンテージを持っていました。しかしアメリカとヨーロッパが本気で中国を取り込み始めると、日本はそうした国と競争しなければならなくなると思います。協力して中国を取り込む戦略も必要になってくるかもしれません。
例えば分野でいうと、自動車です。日本は省エネ化のハイブリッド・カーにおいて群を抜いています。しかしアメリカと中国はハイブリッド・カーで日本と競争する気はなく、完全に電気自動車にシフトしようとしています。日本は中国を取り込む競争に、いよいよ巻き込まれると非常に強く感じました。
それから私の認識する限りでは、グリーン・エコノミーが前途有望であるかどうかについて、専門家の意見が分かれていたと思います。グリーン・エコノミーを進めことは、地球環境にとって悪いはずがありません。しかし日本のメディアがいう「ニュー・エネルギーに替えていくと、そこに需要が発生するから成長産業になる」というのは間違っています。
なぜなら、持続的に供給力が増えていくようにならないと、持続的な経済成長にはならないからです。GDPというアウトプットを生み出すためには、インプットが要るのです。インプットとは、労働と資本と技術です。
今までの化石燃料を非化石燃料に替えるだけなら、インプットは増えないのでアウトプットも増えません。化石燃料を使うストーブを太陽エネルギーで動くものに替えるために、一瞬だけ切り替えの投資が行われて、その一瞬だけは需要が増えますが、それ以後の成長力が増えるという保証はないのです。
つまりこういう問題は、それによって資本の効率配分が進むとか、技術進歩が促進されるとか、供給サイドの革新が伴われてはじめて成長力を高めるのです。これは経済をきちんと議論している世界のリーダーたちの間では常識です。ダボス会議では、そういう議論がなされていると私は感じました。
石倉洋子: 日本で考えられている状況と、世界が見る目は違うということについて、私も気が付いたことがあります。
「デジタル・メディアの将来」というテーマで、日本の学者グループがやったアイデア・ラボのモデレーターをしました。日本では、アニメなどソフト・パワーが世界でアピールすると思われていますが、このアイデア・ラボで参加者が多く集まったのは、日本の技術に関連するグループだったのです。コンテンツのグループは興味を持ってディスカッションしたいという人が少なかったのです。大連のアイデア・ラボという限られた場面だけですが、日本ではソフト・パワーと騒がれているわりに、世界が日本に期待しているのはテクノロジーなのではないかと感じました。
また、北東アジア3カ国がどんな分野で協働するかというテーマでブレイン・ストーミングをした時も、経済連携や協力のための政治的枠組みといういわゆる「ハード」なテーマにほとんどの人が集まりました。やはり世界が見る北東アジア3カ国は、経済、政治、ものづくり、などハードな側面が中心だと思いました。
私はなるべく人が少ないところに行った方がいろいろ話せると思っていたので、一番人数の少ない「3カ国のソフト・パワーをどうやって世界にアピールするか」というグループに入りました。人数は少なかったのですが、3カ国の歴史や文化を振り返ると、日本のアニメ、韓国のテレビ番組、中国の映画などソフトな面で共通している強みがありそうだ。「物を大事に使う」などというライフ・スタイルも共通しているので、広い意味でのソフト・パワーを世界にアピールできるのではないか、という話になり、とても興味深かったのです。でもグループとしては最小のグループでした。
グリーン・エコノミーについて非常に印象的だったのは、「中国との協力の枠組み」という言葉が頻繁に使わていたことです。技術協力もあるだろうし、投資協定もあるでしょう。要するに世界各国は今、経済成長に苦しんでいて、中国の活力をいかに取り込むかが自国の成長のための最大の課題だと考えているのです。
そのためには中国をいかにしてグローバル・アジェンダの中に取り込んでいくかを考えないと、現実は動きません。世界の環境問題の要諦は中国の環境問題である、ということはもうみんな分かっています。
日本はアメリカやヨーロッパに比べたら、中国には地理的にも文化的にも近いし、歴史もあるということで、これまでは日本がアドバンテージを持っていました。しかしアメリカとヨーロッパが本気で中国を取り込み始めると、日本はそうした国と競争しなければならなくなると思います。協力して中国を取り込む戦略も必要になってくるかもしれません。
例えば分野でいうと、自動車です。日本は省エネ化のハイブリッド・カーにおいて群を抜いています。しかしアメリカと中国はハイブリッド・カーで日本と競争する気はなく、完全に電気自動車にシフトしようとしています。日本は中国を取り込む競争に、いよいよ巻き込まれると非常に強く感じました。
それから私の認識する限りでは、グリーン・エコノミーが前途有望であるかどうかについて、専門家の意見が分かれていたと思います。グリーン・エコノミーを進めことは、地球環境にとって悪いはずがありません。しかし日本のメディアがいう「ニュー・エネルギーに替えていくと、そこに需要が発生するから成長産業になる」というのは間違っています。
なぜなら、持続的に供給力が増えていくようにならないと、持続的な経済成長にはならないからです。GDPというアウトプットを生み出すためには、インプットが要るのです。インプットとは、労働と資本と技術です。
今までの化石燃料を非化石燃料に替えるだけなら、インプットは増えないのでアウトプットも増えません。化石燃料を使うストーブを太陽エネルギーで動くものに替えるために、一瞬だけ切り替えの投資が行われて、その一瞬だけは需要が増えますが、それ以後の成長力が増えるという保証はないのです。
つまりこういう問題は、それによって資本の効率配分が進むとか、技術進歩が促進されるとか、供給サイドの革新が伴われてはじめて成長力を高めるのです。これは経済をきちんと議論している世界のリーダーたちの間では常識です。ダボス会議では、そういう議論がなされていると私は感じました。
石倉洋子: 日本で考えられている状況と、世界が見る目は違うということについて、私も気が付いたことがあります。
「デジタル・メディアの将来」というテーマで、日本の学者グループがやったアイデア・ラボのモデレーターをしました。日本では、アニメなどソフト・パワーが世界でアピールすると思われていますが、このアイデア・ラボで参加者が多く集まったのは、日本の技術に関連するグループだったのです。コンテンツのグループは興味を持ってディスカッションしたいという人が少なかったのです。大連のアイデア・ラボという限られた場面だけですが、日本ではソフト・パワーと騒がれているわりに、世界が日本に期待しているのはテクノロジーなのではないかと感じました。
また、北東アジア3カ国がどんな分野で協働するかというテーマでブレイン・ストーミングをした時も、経済連携や協力のための政治的枠組みといういわゆる「ハード」なテーマにほとんどの人が集まりました。やはり世界が見る北東アジア3カ国は、経済、政治、ものづくり、などハードな側面が中心だと思いました。
私はなるべく人が少ないところに行った方がいろいろ話せると思っていたので、一番人数の少ない「3カ国のソフト・パワーをどうやって世界にアピールするか」というグループに入りました。人数は少なかったのですが、3カ国の歴史や文化を振り返ると、日本のアニメ、韓国のテレビ番組、中国の映画などソフトな面で共通している強みがありそうだ。「物を大事に使う」などというライフ・スタイルも共通しているので、広い意味でのソフト・パワーを世界にアピールできるのではないか、という話になり、とても興味深かったのです。でもグループとしては最小のグループでした。
関連書籍
戦略シフト
石倉洋子東洋経済新報社
サマーダボス会議 in 大連 報告会 インデックス
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第1章 世界経済の潮流は、ダボス会議で決まる
2009年11月04日 (水)
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第2章 ダボス会議とサマーダボスの基礎知識
2009年11月04日 (水)
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第3章 サマーダボスの重要性に、日本は気づいていない
2009年11月04日 (水)
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第4章 中国の圧倒的な存在感
2009年11月04日 (水)
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第5章 日本の経済人が不在ということに、危機感をおぼえる
2009年11月04日 (水)
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第6章 環境やアニメに対する日本の認識と、世界の認識は違う
2009年11月04日 (水)
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第7章 アイデアをビジネスにする“マルチ・ステークホルダー”
2009年11月04日 (水)
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第8章 新世界の課題を解決する人材になれ!
2009年11月04日 (水)
該当講座
石倉 洋子(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授)
竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授)
ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが東京に事務所を開設することを機に、ダボス会議の前線で議論されていることは何なのか、日本はどのように世界の課題に貢献できるのかについて考えるセミナーです。今回は、9月10日~12日に中国・大連で開催されるニュー・チャンピオン年次総会(サマー・ダボス会議)で何が議論されたか、石倉氏と竹中氏が解説します。
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