記事・レポート
日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う
~1人の日本人が20年間続けたライフワークが、世界を動かす~
更新日 : 2009年12月21日
(月)
第6章 仕事はゲーム。部署異動ぐらいで動じるな
伊藤高明: 世界的には、感染症対策はテロ対策の一環でした。テロ対策を考えれば考えるほど、貧困につながり、それは感染症につながります。貧困を起こしているのは感染症だと。だから結核、マラリア、エイズなどの感染症を防ぐサポートをするための基金ができたんです。
もちろん、私も「(研究を)やめずにやっておいてよかったな」と思います。やめていたら、今ごろ、地団駄踏んでいるでしょうね。
米倉誠一郎: 成功の背景には、大きな歴史的流れがあったということですか。考えてみると、我々は大きな流れの中にいつでもいます、今回の危機もそうです。それを自分のものにできるか・できないかで差が出るとなると、伊藤さんがやめなかったのはなぜですか。
伊藤高明: それは、ライフワークだからです。自分は感染症をライフワークにすると決めましたから。
蚊帳のコンセプトはすごくよくて、昔からみんなもわかってくれていました。『オリセットネット』のコンセプトを話すと、みんな「すごいね」と言ってくれました。でも、「いくら?」「40ドル」「さよなら」と、ずっとこうでした。だから、問題は価格だけだったんです。
米倉誠一郎: ロール・バック・マラリアというWHOのマラリア対策が、買い上げるスキームを作ったので、商業化のメドが立ったということですか。
伊藤高明: 当時WHOで蚊帳の担当やっていた人がとても興味を持ってくれて、2001年に18,000張りを8カ国に配るという、お試し購入をしてくれました。その後2002年には、WHOからイラク向けに20万張りの注文がありました。
ロール・バック・マラリアは98年から始まっていましたが、当時はお金がありませんでした。でも2001年にテロが発生し、基金ができたのです。そのときには、洗っても効果が落ちない蚊帳が必要とされていた。で、それが当時は『オリセットネット』だけだったのです。
米倉誠一郎: すると、価格を下げることができたのは、販売数量が大きく伸びたからですか、それとも補助金などがあったのですか。
伊藤高明: 販売数が伸びたのと、会社が「儲け」目当てではなく「社会貢献」の方針を打ち出したことがあります。
米倉誠一郎: なるほど。これはライフワークを発見できたからこそですね。部署が変わっても変わらないのがライフワークだと……このあたり、会場のみんなに何かアドバイスをお願いできますか。
伊藤高明: 皆さんが私と同じ職場の若い人というつもりで伝えたいのですが、会社の見ている方向で、自分の好きなことを探してください。そうすると、とてもスムーズにものが動きます。それは間違いありません。反対を向くと、抵抗だけで疲弊して終わってしまいます。
それに、人生の3分の1は会社にいるのですから、それを面白くなくしたら「人生の3分の1を無駄に捨てる」ということになってしまいます。部署異動すると「これは俺には向いていない・向いている」とかよく言いますが、そんなこと言っていても面白くないじゃないですか。ゲームだと思って、「これはこうすればクリアできる」「こうやったら失敗したか、じゃあこれならどうだ」と、面白くやっていかないと。
米倉誠一郎: 網の目の大きさにはじまる細部へのこだわり、洗っても5年はもつような殺虫剤を繊維に練り込む工夫、こうした『オリセットネット』のようなプロセスイノベーションは、日本人がすごく得意な分野だと思います。省エネの機械をつくるとか、農薬をうまく処理できるものをつくるとか。こういうものを世界にどんどん広める気質・エンジニア魂みたいなものが日本人にはある。
伊藤さんのお話を伺っていると、日本の特性をうまく活かせるものが本当にいっぱい詰まっているように感じました。今の日本があるのもそのおかげだと思います。伊藤さんは幸い脚光を浴びましたが、まだ知られていないところで頑張っている日本人がたくさんいると思います。みなさんもぜひ続いてください。今日はどうもありがとうございました。(終)
もちろん、私も「(研究を)やめずにやっておいてよかったな」と思います。やめていたら、今ごろ、地団駄踏んでいるでしょうね。
米倉誠一郎: 成功の背景には、大きな歴史的流れがあったということですか。考えてみると、我々は大きな流れの中にいつでもいます、今回の危機もそうです。それを自分のものにできるか・できないかで差が出るとなると、伊藤さんがやめなかったのはなぜですか。
伊藤高明: それは、ライフワークだからです。自分は感染症をライフワークにすると決めましたから。
蚊帳のコンセプトはすごくよくて、昔からみんなもわかってくれていました。『オリセットネット』のコンセプトを話すと、みんな「すごいね」と言ってくれました。でも、「いくら?」「40ドル」「さよなら」と、ずっとこうでした。だから、問題は価格だけだったんです。
米倉誠一郎: ロール・バック・マラリアというWHOのマラリア対策が、買い上げるスキームを作ったので、商業化のメドが立ったということですか。
伊藤高明: 当時WHOで蚊帳の担当やっていた人がとても興味を持ってくれて、2001年に18,000張りを8カ国に配るという、お試し購入をしてくれました。その後2002年には、WHOからイラク向けに20万張りの注文がありました。
ロール・バック・マラリアは98年から始まっていましたが、当時はお金がありませんでした。でも2001年にテロが発生し、基金ができたのです。そのときには、洗っても効果が落ちない蚊帳が必要とされていた。で、それが当時は『オリセットネット』だけだったのです。
米倉誠一郎: すると、価格を下げることができたのは、販売数量が大きく伸びたからですか、それとも補助金などがあったのですか。
伊藤高明: 販売数が伸びたのと、会社が「儲け」目当てではなく「社会貢献」の方針を打ち出したことがあります。
米倉誠一郎: なるほど。これはライフワークを発見できたからこそですね。部署が変わっても変わらないのがライフワークだと……このあたり、会場のみんなに何かアドバイスをお願いできますか。
伊藤高明: 皆さんが私と同じ職場の若い人というつもりで伝えたいのですが、会社の見ている方向で、自分の好きなことを探してください。そうすると、とてもスムーズにものが動きます。それは間違いありません。反対を向くと、抵抗だけで疲弊して終わってしまいます。
それに、人生の3分の1は会社にいるのですから、それを面白くなくしたら「人生の3分の1を無駄に捨てる」ということになってしまいます。部署異動すると「これは俺には向いていない・向いている」とかよく言いますが、そんなこと言っていても面白くないじゃないですか。ゲームだと思って、「これはこうすればクリアできる」「こうやったら失敗したか、じゃあこれならどうだ」と、面白くやっていかないと。
米倉誠一郎: 網の目の大きさにはじまる細部へのこだわり、洗っても5年はもつような殺虫剤を繊維に練り込む工夫、こうした『オリセットネット』のようなプロセスイノベーションは、日本人がすごく得意な分野だと思います。省エネの機械をつくるとか、農薬をうまく処理できるものをつくるとか。こういうものを世界にどんどん広める気質・エンジニア魂みたいなものが日本人にはある。
伊藤さんのお話を伺っていると、日本の特性をうまく活かせるものが本当にいっぱい詰まっているように感じました。今の日本があるのもそのおかげだと思います。伊藤さんは幸い脚光を浴びましたが、まだ知られていないところで頑張っている日本人がたくさんいると思います。みなさんもぜひ続いてください。今日はどうもありがとうございました。(終)
日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う インデックス
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第1章 疾病パンデミックの脅威
2009年10月28日 (水)
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第2章 マラリア対策に『オリセットネット』が選ばれた理由
2009年11月09日 (月)
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第3章 38万人の子どもの命が救われた
2009年11月19日 (木)
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第4章 マラリアは根絶できるか?
2009年12月01日 (火)
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第5章 感染症対策というライフワークが見つかるまで
2009年12月11日 (金)
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第6章 仕事はゲーム。部署異動ぐらいで動じるな
2009年12月21日 (月)
該当講座
日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う
~1人の日本人が20年間続けたライフワークが、世界を動かす~
伊藤高明(住友化学(株)ベクターコントロール(事)技術開発部)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
アフリカの貧困を救う防虫蚊帳「オリセットネット」を開発した伊藤氏の20年間にわたる研究の過程から、スピード重視で結果を急ぐ現代の日本人が忘れがちな「地道に、こつこつと、一つのことを続ける」ことの価値を改めて考えます。
日本元気塾
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