記事・レポート

日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う

~1人の日本人が20年間続けたライフワークが、世界を動かす~

更新日 : 2009年11月19日 (木)

第3章 38万人の子どもの命が救われた

ムハマド・ユヌス氏

伊藤高明: 『オリセットネット』が生まれた経緯についてお話すると、最初は郊外工場における防虫対策としてはじめたものでした。郊外の工場では虫が集まってきてしまい、製品に混入する恐れがあるので防虫対策が必要だったのです。そこでペルメトリンというピレスロイド系殺虫剤をポリエチレンに練り込んだ防虫網戸を開発普及しました。

一方、1985年ごろから、通常の蚊帳にピレスロイド処理すると、マラリアの感染予防が効果的にできるという研究報告が相次いで出てきました。私は当時、「普通の蚊帳は洗ったら薬剤が落ちてしまうし、暑苦しいだろうな」と思い、郊外工場の防虫網戸の技術を利用して、蚊帳に適した糸の太さ、編み方をいろいろ検討して『オリセットネット』を開発したのです。

『オリセットネット』は、殺虫剤を練りこんでいるので、洗って表面から薬剤が落ちても、樹脂の糸の内部から薬剤がまた出てくるということで、再処理する必要がありません。また、必要量しか表面にないので残効性も長いですし、ポリエチレンのモノフィラメントのために非常に物理的にも強く、ワイドメッシュになっているので普通の蚊帳より網目が大きくて通気性もいいのです。

網目の大きさはどうやって決めたかといいますと、真っ暗なところで、どうやって蚊が網を通過するかを赤外線で観察しました。すると、飛んでいる羽の幅よりも網目が狭い場合は、絶対にとまらざるを得ないことがわかったのです。そこで、とまらざるを得ない範囲で大きな網目にし、蚊が網にとまったときに薬剤に触れるようにしながら、通気性も確保しました。

この『オリセットネット』によって何人ぐらいの子どもが死ななくて済んだのかということを試算してみました。

『Lancet』という医学系の世界でトップクラスの雑誌がありますが、それに載っていた1,000張りで7人の子どもが助かるという数字と、今までの販売数量をもとに計算すると(使用者の手元に届くまでに1年かかると仮定)、「2002~2007年の間で、約38万人の子どもの命が救われた」と考えられます。推定、約7.6%の死亡率の低下です。

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日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う

~1人の日本人が20年間続けたライフワークが、世界を動かす~

日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う
伊藤高明 (住友化学(株)ベクターコントロール(事)技術開発部)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

伊藤高明(住友化学(株)ベクターコントロール(事)技術開発部)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
アフリカの貧困を救う防虫蚊帳「オリセットネット」を開発した伊藤氏の20年間にわたる研究の過程から、スピード重視で結果を急ぐ現代の日本人が忘れがちな「地道に、こつこつと、一つのことを続ける」ことの価値を改めて考えます。


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