記事・レポート

「アメリカ大統領選挙から、アメリカ社会を考える」

更新日 : 2008年07月09日 (水)

第19章 拉致問題に固執する日本は、世界から孤立する

ジェラルド・カーティスさん

ジェラルド・カーティス: 時間をちょっとオーバーしそうですが、北朝鮮の話をします。北朝鮮には16年振りに行ったのですが、そこに住んでいる国民があまりにもかわいそうという印象を持ちました。みじめな国なんです。ひどい独裁政権でカルトなんですね、金日成カルト。色がない国です。着ている洋服がグレーか黒。カラフルなものを着ている人はほとんどいません。道を歩いている人はすごく多いけど、誰もしゃべらない。笑っている人を見たことがありません。本当に暗い国なんです。

平壌の飛行場に着いて驚いたのは、1日に2便しかないんです。着いた日に我々が乗っていたベイジンからの飛行機と、ロシアのウラジオストクからの飛行機が往復する、それだけ。帰る日にベイジンに行く僕らが乗った飛行機と、中国の瀋陽(しんよう)に行く飛行機、それだけ。ほとんど経済が動いていない。

北朝鮮の政権は、今、何とかしないと本当に崩壊するという危機感を抱いています。16年前にはなかった危機意識を、今回すごく感じました。何とかアメリカと仲良くしたいというのが北朝鮮の本音だと思います。

日本にとっての問題は拉致問題のことばかり言っているので、北朝鮮が日本に対して非常に強固な態度をとっているということです。6者会談に参加しているほかの国々は、非 核化のために北朝鮮にエネルギー、石油を供給して、その代わりに寧辺(ヨンビョン)にある核施設を閉鎖するよう迫っています。でも日本は安倍政権になってから全然協力的でなく、邪魔しようとしていると北朝鮮は言う。

日本は、「拉致問題の解決がなければ、アメリカは北朝鮮をテロ支援国家のリストから解除すべきではない」という立場を取っています。アメリカにしてみれば、アメリカの対朝政策が拉致問題に人質されるようなことは許さない。日本は孤立する危険性があります。

平壌に行く前の日に、シンガポールでヒル国務次官補と北朝鮮の金桂冠が会って、第2段階を終わらせる交渉をしました。これが本当に成功するかどうか、まだはっきりしないのですが、多分できると思います。それが実現すれば、北朝鮮はテロ支援国家のリストから外されます。拉致問題が何も進展しなくても 解除されます。

それとアメリカの北朝鮮への経済制裁も解除されます。するとアメリカと北朝鮮のいろいろな経済関係が広がります。それで今、北朝鮮の外務省が我々を 呼んでいるんです。とても積極的にアメリカ人を呼ぼうとしているのです。また、北朝鮮の学者をアメリカに送ろうともしています。あの国はだいぶ変わろうと しています。

今、北朝鮮は門を開くという言い方を使っています。アメリカに対しては門を開こうとしていますが、日本に対してはそうではない。日本が孤立すること を向こうは考えているのです。日本ともある程度うまくやっていかないと、そのうちアメリカともいろいろな問題が出てくる。先日福田総理が制裁を延長しまし たが、制裁を止めたら北朝鮮がどうするか暗黙の了解を得るような交渉を静かにして、それで安倍政権がつくった日本の北朝鮮に対する強硬政策を変えて、ほかの国々と同じレールに乗ってやるべきだと。

終わりの時間がきてしまいました。北朝鮮の話は駆け足になりましたが、1時間は余裕で話せるので、また別のセミナーチャンスがあったらお話しすることにしましょう。今日はみなさん、ありがとうございました。

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