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「アメリカ大統領選挙から、アメリカ社会を考える」

更新日 : 2008年05月22日 (木)

第2章 複雑なアメリカ大統領選挙の仕組みを簡単に説明します

『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』

ジェラルド・カーティス: 私の本『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』(日経BP社)の中で、40年にわたって見てきた日本のことを書きましたが、今日はアメリカの大統領選挙の仕組みと、ヒラリーとオバマの選挙運動から見るアメリカの社会の変化、そして日米関係の話をします。

日本の新聞・テレビも、アメリカの大統領候補者を選ぶ仕組みを随分取り上げていますが、多分この部屋に、このシステムを完璧に分かっている方は1人もいらっしゃらないと思います。私がそう自信を持って言えるのは、このシステムを分かっているアメリカ人もほとんどいないからです。あまりにも複雑で非合理的でめちゃくちゃで、訳が分からない。州ごとにやり方が違う、党のやり方も民主党と共和党で違う、アメリカ政治の専門家たちも選挙制度の専門家たちも、ちゃんとは分かっていません。

例えばテキサスの予備選挙ではヒラリーが勝ちました。3月4日にオハイオとテキサスで予備選挙があったのですが、その選挙の前に、夫のビル・クリントン が、「もしもヒラリーがどちらかで負ければ、もうこれでオバマに決まります」と言っていました。しかし、ヒラリーはオハイオでもテキサスでも勝ちました。 ただ代議員数ではテキサスではオバマさんの方が多い。テキサスの代議員は予備選挙で60%の代議員が選ばれますが、民主党の場合は勝った人が全代議員を得 るのではなく、比例配分するので、例えばヒラリーが55%の票で予備選挙を勝てば、ヒラリーが代議員の55%を、オバマが45%を得るわけです。

しかし、テキサスはそれだけではなくて、代議員の40%は caucusという党員集会で選ばれます。党員集会は予備選挙が終わった後に、地域の人たちが誰かの家、あるいは学校に集まって誰がいいかを話し、最後に 「誰にしますか? オバマの支持者はこっちに、ヒラリーの支持者は向こうに立ってください」とやって、それぞれの支持者の数を党の役人が数えるわけです。 だから秘密投票ではなくて、みんな分かるのです。

ただし、テキサスで党員集会に参加できる人は、4年前の予備選挙に投票した人に限ります。これは誰も知らなかっただろうと思います。実は、僕も今回、初めて知りました。

ヒラリーとオバマの支持基盤の面白い違いは、オバマは黒人の支持が80~90%ぐらいあるのです。ただヒスパニックの支持が非常に低い。ヒスパニッ ク、中南米系のアメリカ人は圧倒的にヒラリーの支持者が多い。ただ、たまたま4年前の予備選挙では黒人が多く投票して、ヒスパニックはあまり投票しなかったんです。だから今回の党員集会に参加できたのは黒人が多く、ヒスパニックは少なかったのです。

予備選挙ではヒラリーが勝ったけど、党員集会ではオバマが勝って、代議員数ではオバマがリードしている。それで「テキサスでヒラリーが勝った」ということになっているのはおかしな話ですが、これは1つの例に過ぎません。いろいろあるのです。

予備選挙を「プライマリー」といいますが、プライマリーには2種類あります。オープンのプライマリーと、クローズのプライマリー。クローズド・プライマリーというのは、例えば民主党なら、民主党を支持している・登録している人たちだけが参加できるというものです。

日本では自民党とか社会党、民主党の党員になってお金を払うことがあるのですが、アメリカは日本とは違って党員制度はありません。ただ、選挙をするとき、「私は民主党支持者」「いや、共和党支持者」「いや、インディペンデント」と、登録しようと思えばできるのです。

つまり、クローズド・プライマリーは、その党の支持者として登録している人に限るわけです。一方、「今年の予備選挙は共和党ではなく、民主党の予備選挙に投票したい」という共和党支持者ができるのがオープン・プライマリーです。

オバマは、いわゆるインディペンデントや共和党の人たちからの支持がヒラリーよりもあるから、オープン・プライマリーではオバマが非常に強かった。クローズド・プライマリーは民主党の支持者に限りますから、やはりヒラリーの支持が多い、めちゃくちゃ強いです。

関連書籍

政治と秋刀魚—日本と暮らして四五年

カーティス,ジェラルド
日経BP社

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