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本好きにはたまらない「書物」に纏わるミステリー

読みたい本が見つかる「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2009年10月09日 (金)

第6章 書物に憑かれる!?

書物の価値は知識を得る手掛かりだけでなく、モノとしての希少性、珍重される工芸美術品などいろいろあります。だからこそ人の所有欲を刺激し、高額売買や贋物造りが行われてきました。こうした書物に対する人間の欲望をモチーフにしたミステリーをライブラリー・フェローの澁川雅俊が紹介いたします。

ところで、愛書狂、本の虫、書痴などと揶揄されようとも、むしろそれを誇りにする「書物に取り憑かれる」メンタリティのおおもとに何があるのでしょうか。

おそらくそれは、書物に対する私たちの価値観でしょう。まず書物にはその命とも言うべき中味(テキストと言い換えてもいい)があります。それには、書かれていることの真偽はともかく、伝達あるいは伝承を意図する記録性を持ちます。それによって私たちは、いまでは体現できない消え去った過去のものごとを明らかにする手掛かりを得ることができます。そうした質性ゆえに謎が生まれ、それを解くのが格好の題材になります。

また書物の中味、すなわちテキストは、どのようなスタイル(叙事、抒情、フィクション、ノンフィクションなど)で書かれようと、私たちが真・善・美に至る手掛かりとなります。しかしあるテキストの存在が人によって正統と異端、あるいは真・偽、善・悪、美・醜に別れて戦うようなことにもなります。そうしたこともまたミステリーの格好のネタになります。

そうした価値観は書物の本質的価値にかかわりますが、私たちはしばしばモノとしての書物の価値も認めることがあります。モノとしての価値の一つに、特定の一点の書物がこの世に現れ、時の経過と共に付与される価値があります。別の言い方をするとそれは古書のもつ希少価値のことですが、それゆえに書物はしばしば高額な商品価値に転換し、ある種の人たちはそれにこだわり、それを所有することにこよなく優越感を覚えることになります。書物をめぐるミステリーの多くがこの種の価値に対する欲望が物語の発端になっています。

いま一つは、書物を美術工芸品として崇める価値です。多くの場合この世の中にそれしか存在しないモノに付与する価値です。この場合にも高額商品価値や私有に対する欲求に繋がります。

真善美につながるというテキストの質性とモノとしての希少性や美的価値を逆手にとって、贋作が物語の中核になる作品も少なからずあります。いずれにせよ人々は書物にさまざまな想いを寄せます。その想いの数だけ今後も多くの作品が書かれることでしょう。(終)

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