記事・レポート

いま、環境の何が問題なのか

環境問題を取り巻く世界の動向と、問題の本質を捉える

更新日 : 2009年08月10日 (月)

第4章 国際的ルールをどのように合意に導いていくか

小島敏郎氏 地球環境戦略研究機関特別顧問


小島敏郎: 2013年以降の枠組みをどう考え、どう国際交渉を合意に導いていくか。昨年(2008年)12月に開催されたポーランドでのCOP14のAWG-KP(アドホック・ワーキング・グループ-キョウト・プロトコル:京都議定書の作業部会)での結論文書は、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の第四次評価報告書が指摘していることを認識して引用しているだけです。

では、COP15の合意はどうなるか。2つの合意方式私案を考えてみました。

1つは、京都議定書を真正面にとらえ、どんどん進んでいく方法です。国際社会が共有すべき究極の目標として、温暖効果ガス濃度の安定化の目標として「450ppm」に抑えることを合意する。そして2050年までに世界全体の排出量を「少なくとも50%削減」する——これはG8サミットで決めたことです。それから遅くとも世界全体の排出量の「ピークアウトを2020年」にする。

2020年は、日本にとって義務的な目標になります。ダボスで福田元首相は、「日本は法的拘束力のある国別総量目標でいく」と明言しました。京都議定書でいくと、日本は国内で1990年から20年かけて、正味の削減量は0.6%です。これに加えて途上国で削減する部分があり、これが1.6%。それから森林等の吸収源で3.8%。日本の6%削減というのは、この3つの要素で成り立っています。京都では先進国全体で5%と決めましたが、各国の削減目標はそれぞれの国の事情を勘案して差異化、配分しています。

今後中国やインドなどの主要排出途上国はどうするか。国情を考えると、義務的な目標を設定するというのはなかなか大変です。IPCCは、450ppm濃度安定化を達成するには、先進国の温室効果ガス排出量を「2020年」には「25%から40%削減」することが必要であると言っていますが、主要排出途上国が排出量を抑制しないと、450ppmシナリオは成立しません。また、先進国の正味の削減量も、「25%から40%削減」にはどう考えても届きません。

小島敏郎氏 地球環境戦略研究機関特別顧問
竹中平蔵氏(左)小島敏郎氏(右)
しかし交渉の流れは、先進国「25%から40%削減」というシナリオを軸に走っているので、この流れを軌道修正するには、まず、先進国で合意する必要があります。どうやって妥協点を見出し、合意に持っていくか。次のコペンハーゲン(※編注:COP15の開催地)では、長期目標とその方向性の合意が不可欠だと思います。

もうひとつ、全く発想の違う私案があります。「宇宙ステーション方式」です。もう1年しかないから、みんなの意見をまとめてしまおう、という方式です。

宇宙ステーションに3つの合意の部屋をつくります。1つ目は、究極目標の温室効果ガス濃度450ppm安定化目標の合意の部屋。これは大きな共通認識です。

2つ目は世界全体の温室効果ガス排出量2050年半減目標の合意の部屋。2020年から2050年までの30年間、どうやって減らしていくかということについて、具体的な検討プロセスを走らせる部屋です。

3つ目の部屋では、3つのシャトルがドッキングします。シャトル1は京都議定書方式の約束、国別総量目標の国際的な約束です。主なプレーヤーはEUになります。それに、新方式の約束シャトル2をドッキングさせます。主なプレーヤーはアメリカで、国別総量目標を国内の法律で定め、国際的に報告させるのです。シャトル3は、主要排出途上国がBAU(Business As Usual:特別な対策を行わない場合)から、例えば15〜30%を減らすという目標を定め、それ以上減らしたらクレジットの対象にする。いわゆる売っていいとするノールーズ・ターゲット(※編注:失うもののない目標)の考え方です。アメリカの民主党系のシンクタンクはこの方式を提案していますし、EUにもそういう素地があります。

国際交渉というのは日本国内で考えているだけではなく、何だってあり得ると考えて、いろいろな武器を準備しておかなければならないのです。


該当講座

いま、環境の何が問題なのか
〜大局的な視点から問題の本質を捉える〜
小島敏郎 (地球環境戦略研究機関特別顧問/前環境省地球環境審議官)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

小島 敏郎(前環境省地球環境審議官)×竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長)
地球温暖化問題が注目を集める中で環境関連の情報が氾濫しており、本質が見失われがちな現在、改めて「環境問題」とは何かを小島氏と竹中理事長に議論していただきます。


BIZセミナー 環境