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ビジネスマンのための「経営力」養成講座

更新日 : 2008年12月04日 (木)

第5章 肩書きや権威で動く人間は長続きしない

小宮一慶さん

小宮一慶: 私はピーター・ドラッカーが大好きです。彼の本には、企業がこの世の中で存在を許される最低条件とは法律を守ることだ、ということが書いてあります。法律というのは、この世の中で人々が平和に暮らすために最低限守らないといけないルールのことです。

ビジネスを知らない人はよく言うんですよ、「小宮さん、法律なんか守っていてはもうかりません」と。違うんですよ、もうからないのはお客さまのために適切なQuality、Price、Serviceの組み合わせをしていないからで、法律を守っているからではないでしょう。

ドラッカーの話には続きがあります。企業が存続を許される条件とは、社会に貢献することだ、というのです。社会貢献は休みの日に海岸の掃除をするとかいうことではないのです。企業にとって最大の貢献は何かわかりますか? ここはビジネスの本質です。

一義的には「よい商品やサービスを提供すること」によって売上が上がり、利益が出ます。そうすると雇用が維持できます。たくさん売れるとより多くの雇用を維持できるし、働いてくれている人に、よりたくさん還元することができます。当然のことながら、株主さんにもたくさん還元することができるし、仕入先さんからもたくさん買ってあげることができます。それから、税という形で社会にお金を戻すこともできるわけです。ですから、一番の根源は、お客さまに対してよい商品やサービスを提供することです。

言い方を変えると、お客さまから利益を得ない限り、会社は成り立たない。その当たり前のことをドラッカーは言っているのです。

肩書きや権威は人を動かすけれども、長続きしません。理屈では人は動かないのです。自分のことですら完璧に動かせないのに、人を動かそうと思っていることが間違っている。だから、自分が「まずやってみよう」と思うことです。

私は零細企業の社長をやっていますが、自分が精一杯全力でやると、人がついて来てもついて来なくても、どちらでもいいという気持ちになります、はっきり言って、そのぐらいまでならないといけないと思う。ただ大きな会社、大きな組織を動かすなら、人についてきてもらわなければいけないわけで、そのために「人望や人徳を身につけよう」という気持ちにならないとだめです。

言い方を変えると、人は「幸せ」について来るんです。奥さんだって、旦那さんだって、子どもだって、恋人だって、部下だってそうです。みんな幸せについて来るのです。「この人と一緒にいたら幸せになれるかどうか」と思っているわけです。それを理解しないといけない。

私は多くの企業のトップを知っていますが、トップは人の何倍も働いていて、心も体もボロボロです。人の何倍も気を使うからトップになれるわけですし、それを見せないからトップをやっていられるのですが、大事なことは自己犠牲しないことです。自分を犠牲にしたら長続きしません。自分を犠牲にせずに、周りにいる人も幸せにする、その方法を考えることです。

実は「お客さま第一」というのも同じなんです。自分の会社を犠牲にせずに、お客さまを大切にする、そうしないと両方繁栄しないでしょう。

もう1つは、正しい価値観を持つことが大事です。それには昔から読み継がれている本を読むこと。『論語』や『老子』、『菜根譚』などの中国の古典があります。昔から多くの人が読んでいるキリスト教の聖書でも構わないし、仏教聖典でもソクラテスでもいいんです。何千年もの間、読み継がれている本というのには何らかの真理があるんです。絶対的に正しいかどうかは分からないけれど、自分の価値観を形成するのにすごく役に立ちます。

先ほども申し上げましたが、経営者というのは判断業です。物事を解決する、判断する、最終的なものは価値観です。皆さん、これから経営者として成功していく中で、ご自身の価値観を醸成していくということがすごく大事だと思います。


該当講座

ビジネスマンのための「経営力」養成講座
小宮一慶 (経営コンサルタント/株式会社小宮コンサルタンツ代表/明治大学大学院会計専門職研究科特任教授)

年功序列や終身雇用といったシステムが崩壊しつつある今、ビジネスマンにとって「経営者的視点」を持つことは、不可欠となりつつあります。 本講座では、経営に不可欠な3つの要素と、それぞれの要素に必要な能力について、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』や『「一秒!」で財務諸表を読む方法』などベストセ....


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